第6話 命運は?

文字数 1,351文字

 き、気になる。どんな会話が繰り広げられているのか。小野寺さんの命運は……?

「まさかクビなんてことないですよね」

 夜道で恐る恐るタケコさんに訊ねる。

「うーん、厨房入りは延びたかもね」

 苦笑いでそう答えた。やっぱり叱られるのか。でも悪いことだったのかな。お客様はあんなにも喜んで帰られたし、お店の印象だって良くなったくらいのはずなのに。

「私がはじめから断ってればよかったですかねぇ……」

 こうなると結構マイナス思考な私。夜道を歩きながら、もやもやをタケコさんに聞いてもらう。

「あんみつちゃんは悪くないでしょ。小野寺くんがひとりで突っ走りすぎたってことよ」

「やっぱり叱られてるんですかねぇ」
「心配してんの?」
「心配っていうか、なんか……せっかくがんばったのに」

 憐れ、というか。

「上手くいったからいいものだけど。……ってことじゃない? まあ、早い話が『仕事なめんな』って言われてるんだと思うよ」

 あの温厚なシェフの口から『なめんな』とは。

「友達や家族に振る舞う『趣味のお菓子作り』とはわけが違うからねぇ。出来るからってやっちゃダメなこともあるんだよ」

 商品を販売するということ。
 プロとして製造するということ。
 責任──。

「シェフの言う『小野寺くんの不完全な部分』、私わかる気がする」

「えっ! な、なんですか!?
「言わないけどさ」
「ええっ、なんで!?

「私小野寺くんのこと嫌いだけど、彼の成長はちょっと見てみたいかも」

 ふふん、と笑って「じゃあね。おつかれ」と分かれ道で手を振った。


 翌日。

 小野寺さんはどんな顔して来るのだろうと思ったけど、それは驚くほどにいつも通りだった。

「おはようございます」
「おはよす」

「……あの、昨日はあれから」

 どうなったのでしょうか。

「一年間は売り場確定だってさ」
「な……」

「けど来年の春からは厨房(なか)に入れてくれるらしい。そんなら耐えれる」

 強い人だ……。

「それに」

「それに……?」

「ケーキのことは、褒められた。即興であんなん出来るのはすごいって」

 それは本当にそうだと思う。やっぱりシェフは、よくわかっているんだ。わかった上で、小野寺さんに試練を与えているんだ。

「あと『不完全な部分』のことだけど」

 今日はずいぶんちゃんと話をしてくれるな、と思っていたところだった。

「小倉さんを見ろ、って」

「……は?」

「さあ。わかんないけど、あんたがヒントらしい」

 は?

「なんですかそれ」
「しらねーよ」

 言いながら少し照れた顔をした。な、なにこの感じ。

「だからこれからは

の仕事ぶり、しっかり見さしてもらうから」

「ちょ……や、やめてくださいよっ!」

「高一からバイトでしょ? なら同期っつーより先輩じゃん。よろしくお願いします」

「だからやめてくださいってば!」

「あらぁ、なに? ずいぶん仲良くなったじゃなーい♡ 母の日効果? たまには私、休んだ方がいい感じ?」

 そう言って現れたのはゆうこさん。ああ、やっぱりこの顔があるだけでとっても安心する。それにしても、やめてくださいよ、ゆうこさんまでっ!

「全然です、全然っ! 小野寺さんがからかってくるから」

 ああもう、顔が熱い。

「あら。そうなの? 小野寺くん」
「いえ。べつに」

 洋菓子店シャンティ・フレーズは、今日も元気に営業しております!


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