第28話 最終日

文字数 1,076文字

 そんなわけで最終日の12月25日──。

 もうここまで来れば。という感はある。厨房(なか)も、売り場(そと)も。

 なんだけど。

「小野寺くん、まだですか?」

「ああー、死んじゃったかなぁ」

 シャレになりません。シェフ。

「そろそろ電話しようか」

 時計を見ると午前十一時になるところ。電話を掛けてみると案外すぐに繋がったらしい。「ごめんごめん」だとか「まあゆっくりで」というシェフの声が聴こえる。

「すぐ来るってさ」

 飛び起きた様子が目に浮かんでゆうこさんとともに少し笑った。ちなみに南美ちゃんは今日はお休み。厨房にいるのはシェフだけ、という珍しい光景だった。

「やーやー、おはようございまっす!」

 そんな中で元気な声が聴こえてみんなで振り向いた。一瞬驚いたけどまさか小野寺くんなわけはない。

「ただいマンゴープリン! 頼りの那須兄さんが帰ってきましたよー! バリバリ働きますよーっと!」

 全快した那須さんだった。

「遅いよ那須くん。遅い!」

「え、シェフ! なに、冷たくないすか!?

 なんだか凄く懐かしい感じがした。

「つか、あれ。誰もいない? え、まさかみんな」
「そう。那須くんのおかげでね」
「は? 嘘でしょ!?
「もうね。今年のクリスマス、パーだよ。大損害。どうしてくれんの?」

 シェフになじられてたじろぐ那須さん。あはは、ちょっと本気の恨みも込めてます?

「おはよーございます」
「わ」

 そんな那須さんのうしろから現れたのは小野寺くんだった。おお、よかった生きてたか。

「あれ、那須先輩生きてたんすか」

「お、おまえこそ……なんか亡霊みたいじゃね?」

 小野寺くんはそんな那須さんに「とっくに死んだと思ってた」と返す。

「な、なにを!? 不死身の那須とは俺のことだ」

 そう答える那須さんに少し

先にロッカー室へと向かっていった。

 この一連のやり取りに、那須さんを含めた全員が目を丸くしていた。

「お、小野寺が接客以外で笑ったの初めて見た」

 そう。那須さんの言う通り、一見なんでもない会話のようだったけど、これはすごいこと。

 小野寺くんが那須さんと普通に喋った!

 大袈裟でもなんでもなく、これは大大大進歩と言える事態。小野寺くんと那須さん。彼らはずっと周りが気を使うくらいに犬猿の仲だったんだから。

「成長してる」

 ゆうこさんの言葉に私はこくりと頷いた。

『人嫌い克服』

 それに向けて、小野寺くんは努力をし始めたんだ。

 負けていられない。私ももっと、自分を磨いていかないと。

 気合いを入れ直して、今日も元気にお客様をお迎えしよう。


「ようこそいらっしゃいませ! 洋菓子店シャンティ・フレーズへ!」

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