第82話 約束

文字数 845文字

「約束?」

 なんだろう、と思ったらそれはこんなことだった。

「まず必要外は連絡しないこと」
「えっ、そんな!」

「時差もあるし、日課や習慣にすると出来なかった時余計な心配したりして精神的に健康じゃない」

「それはそうかもしれないけど」

「でも我慢はしない」
「……うん」

 いきなりびっくりさせられた。だって普通なら『毎日連絡しようね』って約束するところじゃないの? まあ、彼らしいと言えばそうだけど。

「あとは課題」

「えっ、課題?」

 また驚かされる。聞き返すと兼定くんは「そう」と答えてにやりと笑った。

「一年の間にお互い、相手にすごいと思わせる成長をひとつ以上すること」

「えー? そんなの兼定くんのが有利じゃん!」
「じゃあ俺は三つでいいよ」
「む……それはそれで」
「ならあんみつも三つね」
「ひえ!? なんで!?

 くはは、と愉快そうに笑って「とにかくなんでもいいから驚かされたい」と言う。むう。成長か……。

「あと最後に」

「まだあるのね」

「……信じててよ」

 はっとしてその顔を見ると、真剣な眼差しが私に向いていた。

「これは、おまえと夢を叶えるためのステップ。成長はするけど、芯の部分は絶対に変わらない」

「……うん」

「わかってると思うけど、『待ってて』なんて俺は言わないから」

「……うん」

「ライバル」

「……ライバル」

 わかるよ。おまえも成長しろ、っていうエールなんだ。

「……負けないから」

 言うと「ほんとかよ」と笑われた。ほんとだもん。がんばるもん。

 すると兼定くんは嬉しそうに笑って「ありがとう」と頭を下げた。

「寂しい思いさせることは、ごめん」

 いいの。それはもう。さっきたくさん泣いてすっきりしたから。

「もう大丈夫。今はすごく、一年後が楽しみ」

 にっこり笑いかけると、彼は少しほっとしたような顔をして今度こそぎゅうと抱き寄せてきた。


「そんじゃ充電させて。一年分」

「え……あ、の! 待って待って、ホットチョコレートがまだ……!」

 ひゃあ! ホットチョコレートとどちらが甘かったかは、ご想像にお任せします……。

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