第62話 休日デート!

文字数 1,345文字

「レンタカーしようと思うんだよね」

「えっ! 小野寺くん運転出来るの?」
「は? 普通出来るだろ」
「そ、そうなんだ」
「え。あんみつまさか」
「……だって必要なかったし」

「ははん」と蔑まれる。もう、わかりましたよ、取りますよ免許。そのうちね。

 小さいかわいい車だった。運転手は似合わないデカい男だけど。

「どこ行くの?」

「果樹園に」

「果樹園?」

 デートだからって映画やテーマパークだなんて思っちゃいけない。なんたって相手は小野寺くんだからね!

「なんのフルーツ?」

「いろいろある所らしいけど、今日はリンゴ」

「リンゴ! え、リンゴ狩り? わあ、楽しみ! でもなんでリンゴ?」

「旬だから。あと……まあいろいろ」

 いろいろ? と少し不思議に思いながらも「ふうん」とだけ返しておいた。

 普段乗らないと言う割に運転の腕前は大したものだった。

「運転久々?」

「まあ多少」

 ん。どっちとも取れる微妙な発言。

「じつはシェフと専門学校の講師やりに行く時運転させてもらってんだよね」

「なにそれ!?

「鈍るから。乗れなくなったら困るし」

 びっくり仰天! 小野寺くんってほんと、ちゃっかりしてるというか、抜かりないというか。

 ちなみに『専門学校の講師』というのは三年前から〈シャンティ・フレーズ〉が定休日である火曜の偶数週に、シェフの助手として小野寺くんもお供しているものです。まあ安易に想像できるけど学生さんたちにモテモテらしいです。く。

「もうすぐ着くよ」

「案外近いんだねぇ」

 楽しいドライブはあっという間。運転する横顔に見とれてる暇もなかった。

 生まれて初めてのリンゴ狩り。真っ赤に実る果実は大きく美しく、そしてとっても美味しそう。

 正当に楽しむ私をよそに小野寺くんはというと、『狩り』もそこそこに幹や根元の観察に励んでいた。……はい? なぜそんなことをするのだい。

「……なにしてるの?」

「『()ぎ木』の観察」

「接ぎ木?」

「木に別の木をくっつけてるんだって。跡があんのかと思ったけど……素人じゃよくわかんないね」

「……はあ」

 ピンと来ない私に説明は続く。

「リンゴの木って、全部そうらしい。種から育てるのは難しいらしくて、枝を別の『台木(だいぎ)』に()いで殖やすんだって」

「……え。それってつまり、この根っこはリンゴの木じゃないってこと?」

「そう。すげーよな」

 小野寺くんはしみじみそう言うと顎を撫でながらまた「すげーよ」とつぶやいて観察を続けた。

 ヘンタイだ。……いや、勉強家、ってことにしておくか。

 リンゴ狩りが終わると売店にて美しいリンゴを三玉購入した。

 勉強家の小野寺くんが遠方に出向いてそのまま帰るはずもなく、果樹園を出ると「行きたい店があって」と車は近くのお洒落なカフェらしいお店の駐車場に停められた。

「ここ、カフェ?」

「そう。売りはオムライスなんだけど、デザートが結構凝ってるらしい」

 昼食でもやはり目線はスイーツなのね。

 そんな満腹満足バスツアー……もとい、ドライブデートは終了。無事に小野寺邸へと帰宅した。

 ちなみにいちおう申しますと、一緒に住んでいるわけじゃないですからね。ご安心を。

 時刻はおやつ時、ということで。小野寺くんはキッチンにて先ほど購入したリンゴを取り出していた。

 さて。なにが出来るのかな? わくわく。

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