第118話 求人募集
文字数 1,565文字
「ああ、ちょうどこれ。本店から届いてたとこ」
お店の事務スペースで兼定くんが見せてくれたパソコンの画面には【求人募集!】と大きく書かれたチラシの画像が映っていた。
クリスマスに戦力となってもらうには秋のうちから入って慣れてもらう必要がある。特に土日しか入れない学生アルバイトさんには。
「本店で前から貼ってるらしいんだけど、あんま……つーか全然来ないらしくて。こっちにも貼っといてってシェフが」
まあこの時給じゃねえ、と兼定くんは目を細める。そこそこの人気店である〈シャンティ・フレーズ〉も所詮は個人経営のお店。当然大手チェーンのように高額なお給料は出せない。
「シェフのあの『形式だけの面接』の真理がこういうことってわけだろーね」
──うん。いつから来れる?
私も経験したあれだ。
「だから最低限良さそうなら即採用ってこと?」
「そう。実際この二号店だっておまえが抜けるのにバイトがひとりも来なかったら今年のクリスマスはかなり厳しいよ」
んん……。りんごちゃんの泣き顔が目に浮かぶ。
「佑にも接客は出来るようになってもらうつもりだけど、それでもね」
兼定くんが言うのと同時にプリンターから紙が一枚吐き出された。先程画面で見た求人募集のチラシだ。
「ヴァンドゥーズの数は本店もここも足りてないのは同じだから。応募があったとしても規模から見て本店が優先されんでしょ。つまり最低でも二人以上の応募がないとこっちには回してもらえないってこと」
苦々しく言うと兼定くんは印刷したてのその紙を私に手渡した。「目立つとこによろしく」
------
【求人募集!】
クリスマスに向けて
短期アルバイトを急募します!!
洋菓子販売
洋菓子製造補助
未経験歓迎
土日のみOK 時間応相談
ただしクリスマス期間(12/23~12/25)は出勤していただきます。
長期アルバイトも歓迎♪
店舗スタッフにお気軽にお尋ねください!
洋菓子店 シャンティ・フレーズ 店主
------
時給の記載は隅に小さくあった。これ、書かないとだめなのかな。ない方がいい気がすごくするんだけど。
目立つところといえば出入口ドア付近だろうか。ガラス扉のちょうど目線の高さを見定めてテープで四隅を貼り付ける。傾いていないか少し離れて確認していると、ショーケースのカウンターからりんごちゃんがじっとこちらを見ているのに気がついた。
「求人募集……ですか」
カウンターに戻るとそう声を掛けてきた。神妙な顔は自分が教える立場になる自信のなさの現れか。
「うん。私の代わりがいないとね」
言い終わる前に「あんみつさんの代わりなんて誰にもできませんよううう」と泣きつかれてしまった。もう、そろそろ自信を持ってほしいんだけど。
「私、初めてのクリスマスなんですよ? 新人さんが来ても教えられることなんてなにもないですよっ」
そこに自信持ってどうするの。
「大丈夫。クリスマスって言っても普段の仕事のプラスアルファなんだから。店長や佑くんも手伝ってくれるだろうし、りんごちゃんなら大丈夫だよ」
なだめたけれどりんごちゃんは涙目で「ひひーん」とお馬さんみたいにいなないた。
「でもね、全然応募が来ないらしいんだよね」
誰か知り合いでもいいんだけど、りんごちゃん、どう? と軽く訊ねてみる。すると「え、知り合いか……」と思案顔になった。
「アサヒくん」
「へ」
初めて聞く名前に首を傾げた。するとりんごちゃんは「男の人はダメですかね」と言う。
「や。男性の販売員もありだよ。小野寺店長だってそうだったんだし」
それで、『アサヒくん』とは? と訊ねると、りんごちゃんはその名の通り少し赤くなって「あ……彼氏です」と小さく答えた。
そうか。たしか同い年の大学生だと前に聞いたのを思い出した。
「お昼休みにメッセージ送ってみます」
お店の事務スペースで兼定くんが見せてくれたパソコンの画面には【求人募集!】と大きく書かれたチラシの画像が映っていた。
クリスマスに戦力となってもらうには秋のうちから入って慣れてもらう必要がある。特に土日しか入れない学生アルバイトさんには。
「本店で前から貼ってるらしいんだけど、あんま……つーか全然来ないらしくて。こっちにも貼っといてってシェフが」
まあこの時給じゃねえ、と兼定くんは目を細める。そこそこの人気店である〈シャンティ・フレーズ〉も所詮は個人経営のお店。当然大手チェーンのように高額なお給料は出せない。
「シェフのあの『形式だけの面接』の真理がこういうことってわけだろーね」
──うん。いつから来れる?
私も経験したあれだ。
「だから最低限良さそうなら即採用ってこと?」
「そう。実際この二号店だっておまえが抜けるのにバイトがひとりも来なかったら今年のクリスマスはかなり厳しいよ」
んん……。りんごちゃんの泣き顔が目に浮かぶ。
「佑にも接客は出来るようになってもらうつもりだけど、それでもね」
兼定くんが言うのと同時にプリンターから紙が一枚吐き出された。先程画面で見た求人募集のチラシだ。
「ヴァンドゥーズの数は本店もここも足りてないのは同じだから。応募があったとしても規模から見て本店が優先されんでしょ。つまり最低でも二人以上の応募がないとこっちには回してもらえないってこと」
苦々しく言うと兼定くんは印刷したてのその紙を私に手渡した。「目立つとこによろしく」
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【求人募集!】
クリスマスに向けて
短期アルバイトを急募します!!
洋菓子販売
洋菓子製造補助
未経験歓迎
土日のみOK 時間応相談
ただしクリスマス期間(12/23~12/25)は出勤していただきます。
長期アルバイトも歓迎♪
店舗スタッフにお気軽にお尋ねください!
洋菓子店 シャンティ・フレーズ 店主
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時給の記載は隅に小さくあった。これ、書かないとだめなのかな。ない方がいい気がすごくするんだけど。
目立つところといえば出入口ドア付近だろうか。ガラス扉のちょうど目線の高さを見定めてテープで四隅を貼り付ける。傾いていないか少し離れて確認していると、ショーケースのカウンターからりんごちゃんがじっとこちらを見ているのに気がついた。
「求人募集……ですか」
カウンターに戻るとそう声を掛けてきた。神妙な顔は自分が教える立場になる自信のなさの現れか。
「うん。私の代わりがいないとね」
言い終わる前に「あんみつさんの代わりなんて誰にもできませんよううう」と泣きつかれてしまった。もう、そろそろ自信を持ってほしいんだけど。
「私、初めてのクリスマスなんですよ? 新人さんが来ても教えられることなんてなにもないですよっ」
そこに自信持ってどうするの。
「大丈夫。クリスマスって言っても普段の仕事のプラスアルファなんだから。店長や佑くんも手伝ってくれるだろうし、りんごちゃんなら大丈夫だよ」
なだめたけれどりんごちゃんは涙目で「ひひーん」とお馬さんみたいにいなないた。
「でもね、全然応募が来ないらしいんだよね」
誰か知り合いでもいいんだけど、りんごちゃん、どう? と軽く訊ねてみる。すると「え、知り合いか……」と思案顔になった。
「アサヒくん」
「へ」
初めて聞く名前に首を傾げた。するとりんごちゃんは「男の人はダメですかね」と言う。
「や。男性の販売員もありだよ。小野寺店長だってそうだったんだし」
それで、『アサヒくん』とは? と訊ねると、りんごちゃんはその名の通り少し赤くなって「あ……彼氏です」と小さく答えた。
そうか。たしか同い年の大学生だと前に聞いたのを思い出した。
「お昼休みにメッセージ送ってみます」