第125話 新生二号店

文字数 1,371文字

「あんみつさーん! おかえりなさい!」
「おめでとうございます」
「おつかれさま! あんみつちゃーん」

 はいお祝い。はい食べ物。はいケーキ。「ひ、ケーキもう見たくない!」……と。狭いダイニングテーブルにたくさん並べてくれる。

 そしてベビーベッドを囲むと「ひゃー」「すげえ」「たまんないい」とそれぞれ頬を緩ませた。

「ごめん。打ち上げここでやりたいって言い出して聞かなくて」

 兼定くんは苦笑いをしつつそう言う。あ。すっかり棘がなくなってる。修羅場のクリスマスを越える度に、彼は人としてもこうして成長を見せるんだ。

 よかった。いいチームになれたんだね。

「あんみつさんの負担になっちゃいけないんで。早めに切り上げますから!」とりんごちゃんは力強く言うけど、彼女にこの面子を動かす力がないのは私もよく知っていた。

「あ、それ俺のチキン!」
「はー? そんなのないよ佑っち。名前でも書いてあった?」
「なに? なら書こっか!?
「ちょっともー、二人ともやめてくださいよううう」
「本気本気。小野寺さんペンかして」
「貸すかよ。あと敬語」
「えー、今日は無礼講じゃんー」
「ブレーカー? え、どういう意味ですか?」
「ぎゃはは! やだ、もう、りんごちゃんほんと最高っ!」

 案の定楽しい宴は深夜まで続いた。あはは。私は先に寝ますよー。

「てかこれ。『沢口』なんだね?」
「ああ俺もそれ気になってた」
「あと『あんみつ』ちゃんも本名かと思ってた」
「それは俺は知ってましたけど」
「てか『兼定』とか! なにそれかっこよすぎでしょ、あっはは! 武士っぽい! 息子できたら付けよっかな? ね、どういう由来なのカネサダっち」

「……もううるさい。人んちの郵便物を勝手に見るな。あと俺ももう寝たいからそろそろ帰って」

「あーい。……うわりんごちゃん寝てる」
「佑っちでしょ、お酒飲ませたの」
「だって21でしょー?」
「だめだめ。この子激ヨワだから」
「りんごちゃーん。帰るよー」
「……んん、あ、アサヒくんん」
「ちょちょちょ、俺は『アサヒくん』じゃないからっ」
「あっはは! たしかにちょっと似てるかもー」


 そんなわけで。

「お世話になりましたあ! あー、楽しかったあ。また来年も呼んでよねーん」

 ひよりさんは嵐のように去っていったらしい。

「え、来年もくんの?」

 佑くんの素直なつぶやに、兼定くんは噴いて笑ったんだって。


 さて。こうして新たに進み始めた新生〈シャンティ・フレーズ〉二号店。私はもちろんまだ不在だから、ヴァンドゥーズはりんごちゃんをメインに兼定くんがたまにヘルプ、という形でなんとかやっているそう。

 そう。私がいなくても、ひよりさんが抜けても、お店はちゃんと回っているんだ。

 よかった。これでなんの心配もなく休んでいられる。

 休んで…………ん?

 それってつまり、私は居なくてもいいってこと?

 え。私、戻れるのかな?


 生後三ヵ月を迎えた娘を抱いて、すっかり暖かくなったある日窓を眺めながらふとそんなことを思った。

 復帰は……いつする? できる? どこに?


 ちょうどその時、メッセージを一件受信した。


【佳乃さん】


「佳乃さん……?」

 佳乃さんは本店勤務のパティシエール。なんだろう。直感的になんとなくどきりとした。


【あんみつちゃん、復帰の予定は決まってる? ももよかったら直接会って少し話がしたいんだよね】

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