第42話 令和三十年十二月 再び大阪②

文字数 884文字

テレビはなくなるかという議論は、ここ数十年続いているが、昔より存在感をなくしたとはいえ、安価に映像情報を流すデバイスとしては、これに勝るものは未だ存在しない。
「キー局制度をぶっ壊す」でお馴染みの泡沫候補が、参議院議員選挙に当選し、国会議員8名の勢力を得て、政権与党と組んでから、地方分権の流れもあり、地方制作の番組が全国で放送されることも増えた。

かつてより、広告収入が大幅に減ったため、莫大な制作費がかけられなくなったことも関係するがローカル番組が全国放送されることも多々起こっている。
民放はIT企業と組んで、過去の番組のアーカイブを放送するサブスクリプションサービスで黒字を得て、新しい番組を制作する。また、看板を利用し、イベント企画をするビジネスモデルとなっている。

その中で広告収入に頼らないNHKはテレビの中では一人勝ち状態で「ぶっ壊されないNHK」と皮肉混じりに言われている。
一人勝ちと言っても、一人負けていない状態と言って良く、かつてのような勢いはない。

志水里香は、憂鬱だった。
今日も朝、自分で目玉焼きを作り、トーストと牛乳を用意して食べた。
女性マネージャーと7時40分にマンションの一階で待ち合わせして、大阪NHKまで徒歩で通う。
ドラマの撮影現場が嫌いだった。
初めてのテレビドラマ撮影に浮かれていたが、なんということもなく、ほとんどが良くわからない、待ち時間に費やされる。
一から稽古して作り上げていく舞台の方が好きだった。
もしかしたら、現実逃避かもしれない。

大阪NHKの一階のセキュリティゲートを通り、エレベータで朝ドラの楽屋の階へと上がる。メイクをしてもらい、衣装に着替える。
一時間程撮影があり、またいつ再開するかわからない休憩に入るので、楽屋で待機せねばならない。

退屈だったので、何気なしに、楽屋を抜けて廊下に出る。
いつもは使われていない隣の会議室からわいわいとした賑やかな話声が聞こえる。
ドラマの楽屋ではあまりないようにやかましい。
なんの部屋だろうという興味で、立ち止まる。

志水里香は「落語・講談 新人大賞 演者控室」という張り紙を見て、ときめいた。
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