第21話 プロローグ

文字数 1,113文字

新宿駅西口の地下にある、喫茶店で40代らしい二人の男性が向かい合って座っている。
 この喫茶店は、最近流行りの「昭和カワイイ」喫茶店で、レトロな内装で、注文をとるのは女性に限られ「ウェイトレス」と言われる仕事は、10代の女性の人気のアルバイトである。
 「ウェイトレス」になりたい、男性が面接で落とされて裁判を起こしたのも記憶に新しい。10代というだけで、希少価値があり、試験や選考で落とされたことなく成長するこの世代をマスコミは「ニュー新人類」という訳の分からない言葉で定義するが、実際世界で「ニュー新人類」という言葉と使っている人はあまり見かけない。

「アニさん、ウチの団体の興行出てくれたら、ありがたいですよ。ウチの団体、上方のアニさんたち、出てくれないんで。」
「そない、言うてくれたら助かるわ。やっぱし、寄席出てると出てへんでは、ちゃうしな。」
「アニさんだったら、独演会で食べていけるでしょう?東京住んでるっていえば、イベンターさんだって食いつくでしょうし。」
「どやろか?そうやったらええけどな。」
「そうですよ。イベンターさんだって、上方が協会派と連盟派に別れてるから、どっちかを立てればどっちか立たないでしょ?独立中立で協会抜けちゃったアニさんが一番カド立たないですよ。勿論、腕もありますし。」
「ありがとう。ほんで、いっつもどんな番組なん?」
「今月だったら、これなんですけど。」

令和三十年三月席と書かれ、一日(日)〜十日(火)まで十日間興行に出演する落語家と色物の名前が書かれている。
渡された男性は、それをじっと眺める。

「この お説法 慈水 言うのなんや?」
「やっぱり、アニさんも不思議に思いますよね?令和仏教って流行ってるでしょ?そこのお坊さんなんですよ。」
「令和仏教ってお坊さんて言うてええのんか?カルトちゃうんか?」
「そこ微妙なんですよね。言ってることはマトモですし。この慈水さんだっていい方だし、話術も腕あるんですよ。」
「でその、お坊さんが寄席でなにすんねん。」
「だから、お説法ですよ。笑いも入れてくるし、すごいんですよ。」
「寄席にそんなん入れてええんか?」
「会長がいいって言ってるんで、我々何も言えないですよ。いや、ウチの団体って弱小じゃないですか?また、この慈水さんが出る時はお客さんいっぱいになるんですよ。」
「信者とちゃうんか?それ大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。アニさんも一度打ち上げ一緒に行って貰えば分かりますよ。芸人の気の分かる方ですし。ウチでは最強の色物の先生です。」

上方で、協会派と連盟派の争いに巻き込まれるのが嫌で東京に移住してきた、四代目 三玉斎 の心のうちは、どよんとした黒い雲でいっぱいだった。
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