第49話 令和三十年十二月 再び大阪⑨

文字数 891文字

「お寺ばっかりね。」
吉田は「パパとママのための電動自転車」を漕いでいる。さっきから、後ろの幼児席に身をすぼめながら乗っている鶴女が喧しい。

「すごく長い下り坂ね。どこへ向かってるの。」
谷町筋から松屋町筋へは大きな坂道となっている。
大阪では南北の道を筋といい、東西の道を通りという。南北には梅田と難波という二大繁華街を繋ぐ、御堂筋などメインストリートが通っており、東西はサブストリートである。

「お望み通り、高津神社へ向かってるんだよ。この坂道を下ったところがそうだよ」
「もう、高津神社に着くの?もっと色々回ってからにしましょうよ。」
「この辺りはラブホテルしかないよ。」
「なんで、ラブホテル街にお寺や神社があるのよ。」
「大阪は昔からそうなんだよ。桜宮だってそうだし。そもそも火葬場と色街が隣合わせで発展してきた街だから。そんな小噺も江戸時代からあるよ。生と死は表裏一体だって。」
「あなたラブホテル評論家なの?」
「どんな仕事だよ。それ。」
「他に大阪っぽい所はないの?」
「上方落語家がなんで、わざわざ大阪観光するんだよ。」
「いいのよ。なんでも。」
「あ、最近できた名所がすぐそこにあるみたいだよ。」
「なんていう所?」
「浪花のモーツァルト記念館」
「誰が行くのよ。そんなところ。他にないの。」
「この谷町筋と松屋町筋の間の坂道は南に向かってずーっとお寺が続いているから自転車で行ってみても楽しいかもよ。」
「なんていうお寺があるの?」
「知らないよ。だって観光地じゃないもん。」
「お寺がずーっと続いてるのに、なんで観光地になってないのよ。京都だったら考えられないわよ。」
「分からないよ。とにかくお寺がずーっと続いていて、南の端には安居の天神さん「天神山」の舞台だね。があったり一心寺があるよ。谷町筋の方へ戻れば「四天王寺」もあるし。」
「お寺ばっかりじゃないの。あなたお寺とお墓しか案内できないの?」
「じゃあ、いい所があるよ。」
「どこよ」
「浪花のロッキー記念館」
「いかないわよ、もう。疲れたからとりあえず高津神社に行きましょう。」

二人は高津神社参道脇のレンタサイクル場に自転車を止めて、奥へと入っていった。
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