第23話 令和三十年 四月五日(日) 東京②

文字数 557文字

慈水の説法は、一流の高座と言って良かった。内容もさることながら、リズムとメロディ、息と間が一流だった。
客席は一度、言葉を失ったあと万来の拍手で舞台袖に下がる、慈水を送る。

「お先に勉強させいただきました。」

と楽屋の落語家たちに慈水が挨拶をする。
前座たちは憧れの眼差しで「お疲れさまでした。」と次々と挨拶にくる。

三玉斎は、芸人としての敗北感と、これを新しい芸として、寄席に出していいのか?という葛藤に悩んでいた。
寄席で初めて、慈水を見た観客は、「令和仏教」という、「仏教」の名を騙るカルト団体に興味を持つだろう。最高のコストパフォーマンスである。

令和仏教は、首都圏を中心に勢力を伸ばしている。
限界集落となった地方から、子供たちの住む首都圏に移住してきた、後期高齢者たちは、心の拠り所と居場所を求め、令和仏教に心頭する。
また、老々介護に直面しはじめた、子供世代も、ある意味介護も兼ねた「令和仏教」が便利であり、働かないと生きていけないし、親の面倒を見なければならない問題を解決している。
「令和仏教」についてもインターネット上で賛否分かれて議論されているが、議論が交わることはない。

三玉斎はどちらかというと、良いイメージを持っていなかったが、慈水の説法を舞台袖から見てイメージを変えられている、自分に不思議な戒めを持った。
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