第55話 令和三十年十二月 再び大阪 15

文字数 1,012文字

本殿に参拝を済ました、志水里香と吉田は石段を降りながら、神社の外へと向かっている。

「あなた初舞台はいつか決まってるの?」
「まだ分からないよ。今師匠に、三つ目のネタをつけていただいてるところだから。」
「ネタは覚えてるのね。」
「うん。二つ教えていただいた。」
「早く舞台でかけたいわね。初舞台、見に行くから」
「見に行くからって君も師匠についてて忙しいだろ。」
「忙しいかもしれないけど、見に行くから。今日は楽しかったわ。たまの休日もいいものね。」
「そうだね。修行中は休みがないからね。」
「修行中は休みがない、か。いつまでが修行なの?」
「師匠が終わり、って言うまでだろ?大体三年の人が多いって聞くけど。その間はずっと自由がな時間がない。」
「あら?そうなの。今日はどうして休日なの?」
「言わなかったっけ?師匠が海外公演中だから。ついて来なくていいって。」
「あなたもたまの休日だったのね。私もそろそろ修行に戻らないといけないわ。」
「今から師匠の家に帰るの?」
「そんなところよ。」
石段を降り切る。吉田は参道脇に公衆トイレを見つける。
「ちょっとトイレに行ってくるよ。」

志水が一人残されていると、向こうから、一人の女性が息を切らせて走ってくる。
「志水さん、探しましたよ!撮影始まりましたよ。何してるんですか?戻りますよ。」
志水は落ち着いて返事をする。
「あら、よくここが分かったわね。」
走ってきた女性はぜいぜいと呼吸を整えている。
「水でも飲んだ方がいいわ。」志水が促すが、女性は首を横に振る。
「とにかく、戻りますよ。」
「分かってるわよ。ゆっくり休んだからもう大丈夫よ。私は私の務めを果たすわ。だけど、なんでここが分かったの?」
「電子マネー使ったでしょ?私と共有してるんですから。履歴で分かりますよ。すっ飛んで来たんですから。」
「あら、優秀なマネージャーね。仕事はそうでなくっちゃね。」
「そうでなくちゃって。志水さんの我儘に付き合うこっちの身にもなってください。」
「もう、大丈夫よ。少なくとも三年はね。私修行することにしたから。」
「なんの修行ですか。」
「人生よ。」

吉田が間の抜けた表情でハンカチで手を拭きながら出てくる。志水ともう一人女性がいることを見つける。

「吉田さん、私もう帰るから」
「そちらの女性は。」
「、、、、、師匠かしら。行くわよ師匠。」

志水と女性の二人は参道入り口に止めてある無人タクシーに向かって歩き出す。
吉田はそれを呆然と見ていた。
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