第20話 エピローグ

文字数 1,659文字

「文団治兄さん、知ってます?明治の頃の、文団治と曽呂利新左衛門は、二人とも「桂派」抜けて、「浪花三友派」で、協力してますねんて。二世曽呂利新左衛門は、浪花三友派の会長なってますねんて。」
「へぇ。お前よぉ知ってるな。そんな大昔のこと。戦前の上方落語の歴史て知らんからな。みな。」
「うちに変なん、来てますねん。北京大学出てるらしいんですけどね。そいつに教えてもらいましてん。」
「弟子に、とるんかいな。」
「そうですね。とろ、おもてます。明日、名前やろオモてますねん。」
「珍しいな。初めてちゃうんか、弟子とんのん。どないしてん?お前弟子とらへんのんとちゃうんか?」
「ええのが来たら、僕かてとりますよ、そら。」
「ええか悪いか弟子とる前からわかるのんか?」
「わかりますがな。そんなもん。」
「どこでわかるねん。」
「背筋、歪んでたらあきませんわなそら。背筋歪んでて出世した芸人いてませんやろ。」
「なんやそら。」
「まぁ、とにかく今度のは、弟子にとろとおもてますねん。そろそろね。次に繋いでいくことも考えんとね。」
「お前が、か。時代は変わるなぁ。ほんで、「連盟派」には来てくれんのんか?」
「いや、僕は「協会派」に残りますわ。」
「やっぱりか。」
「僕まで辞めたら、会長可愛そうですしね。あの人、ホンマはええ人やから。嫉妬深いけど。」
「俺は、ええ人やとは思わんけどな。」
「それに、兄さんと僕と別の派閥におった方がオモロいと思うんですよ。同じくらいの大きさの団体がバチバチに競ってる方が、落語界も発展するでしょうし。」
「まぁそやな。俺も同じ意見や」
「昨日「連盟派」来てくれ言うてたやないですか。」
「やかましい。」
「せやけど、互いに、アホみたいなことで、いがみあってたらいかんと思うんです。我々はどこの師匠んとこでも稽古いけたけど、今の若いコら、別の団体の師匠んとこ稽古いけてないでしょ。そらあかんと思いますねん。これはっきり言うて我々のせいですわ。」
「せやな。」
「そやからね、昨日みたいにちょくちょく若手、連れてくるんで、また稽古もつけたってください。連盟派の若手もいつでも僕んとこ来てくれてもええんで。」
「その通りやな。それはそないする。芸の上では、競い合う。せやけど、人間同士は認め合ういうことやな。」
「そうです。いっぺん滅びかけたにも関わらず、先人がここまで繋いでくださった上方落語ですから、世の中から不要やて言われてなくなるならまだしも、自滅したら顔向けできませんからね、師匠に。」
「そやな。漫才っちゅうあんなオモロい芸能が近くに、おっても、乗り切ってきたんやからな。繋いでいかなアカン。」
「兄さんって入門の時、師匠になんていうたんですか?」
「なにがや?」
「落語は社会生活の維持に必要か?て聞かれませんでした?」
「あぁ。そんなん聞かれたな。あの人、コロナで相当参ったらしいからなぁ」
「兄さん、なんて答えはったんですか?」
「たしか「今から、落語家なろオモてる人間が、社会のことなんかわかると思いますか?」ていうたんちゃうかったかな。適当やわ。」
「師匠どない言うてはりました?」
「めっちゃ、わろてはったわ。冗談やろけど、俺の名前やるわて言うてはった。」
「そっからですか。会長と名前で揉めてんの。」
「そうやで。アイツ、師匠の名前強引に襲名したやろ。腹立つねん。」
「会長なりの責任感ちゃいますか?」
「一言、電話でええから言うて欲しいっちゅうねんな。それやったら「兄さん応援しまっせ」てなもんやのに。」
「あの人なりの照れちゃいます?」
「そうかなぁ。とにかく、お前の言いたいことはわかったわ。とりあえず、この残ってる寿司、皆、食べや。」
「一人前多いんですよ。こんなたくさん食べられないですよ。だいたい昨日も寿司やったでしょ。」
「ほんなら、残った一人前、明日食べたらええがな。」
「そんなもん、カピカピなってますがな。」
「とりあえず、明日も来たらええがな。」
「明日、東京なんで、遅なりますよ。」
「おう、待ってるわ。若いのも連れてこいよ。寿司とっとくわ。」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み