第47話 令和三十年十二月 再び大阪⑦

文字数 634文字

吉田はレンタサイクルのサブスクリプションサービスに登録していたので、難波宮跡公園で自転車をレンタルする。
「こんなダサい自転車で二人乗りするつもり?もっと丸みを帯びたスクーターを借りなさいよ。」と黒いキャップ帽をとった女性に言われる。吉田は「フランクを通り越して尊大だな」と感じる。とここで、この女性の名前を聞くのを忘れていたことに気づき
「二人乗りするつもりはないよ。二人乗りは条例違反じゃないか。スクーターなら尚更だ。ところで君は誰の弟子でなんという名前なんだ?」と尋ねる。
「え?」と女性が驚く。
「いや、さっき審査会場で聞き忘れていたから。」
「つ、つ、鶴女(つるじょ)よ。」
「筒鶴女?」
「筒鶴女じゃないわよ。鶴女よ。」
「鶴女さんって言うんだ。師匠は誰?」
「名前から推測すれば、わかるでしょう。さ、これなら二人乗りできるんじゃないの?」
鶴女と名乗る女性は、返答をはぐらかし、電動モーターを搭載した保護者が保育園の送り迎えに使うための自転車「ママとパパのための自転車」通称「ママチャリ」を指さす。
「鶴女さんがそれに乗りたいなら、それに乗ればいいじゃないか。僕はこの自転車に乗るから。」
「何言ってるのよ。二人乗りするのよ。このベスパに」
「ママチャリでしょ。それ。」
「とにかく、あなた後ろに乗りなさいよ。」
「鶴女さんが運転するの?僕は後ろの子供が乗るところに。」
「そうよ。とにかく乗りなさい。」

吉田は、言われるがままにママとパパのための電動自転車の幼児席に体をすぼめて座った。
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