第2話 令和三十年七月。大阪。 ①

文字数 652文字

大阪市内、北エリアのタワーマンションの1階ロビーの前に15分ほど前から、坊主頭で黒のポロシャツの青年が立っている。防犯カメラはその姿を捉えているが、アラームが鳴ることもない。
自動ドアの内側から、和装の男性が大きなキャリーバッグを引いて出てきた。
青年はその姿を捉えると、急いで駆け寄り
「おはようございます」
と大きく声を張り上げ地面につくのではないかという勢いで、頭を下げた。
和装の男性は「おはよう」と言うと、引いていたキャリーバッグを青年に預けてスタスタと歩いていく。タワーマンションの周りには無人タクシーが何台か止まっており、その一台を見つけて和装の男性が裾を気にしながら後部座席に乗車する。青年は慌てて無人タクシーの荷台にキャリーバッグを乗せて、操作座席に駆け込む。
「師匠、今日はどちらへ?」
「福島のいつもの荒川さんとこやねん。」
「承知しました。」
青年はgoglassの履歴から、大阪市の同じく北エリア内にある高齢者用タワーマンションの住所を引っ張りだし、タクシーと共有する。
内部スピーカーが「目的地確認いたしました。12分後、に、到着いたします」と可愛らしい女性の声で応答する。
「君、二週間、見習いでついてみてどうや?落語家儲からへんやろ?VRとかそんなんでシンガポールとかインドネシアで派手に活躍できてる噺家ばっかりちゃうからな。今日かて市内のタワマン3軒回って、僅かなもんや。君、北京大学出てんねやろ?君みたいなんが噺家なったら終わりやで。」
「いえ、それは...」
青年は口をモゴモゴとさせている。
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