第27話 令和三十年七月二十三日(木) 東京②

文字数 923文字

三玉斎と曽呂利新左衛門とその弟子が、玉露亭の楽屋に入る。
この玉露亭をホームグラウンドとする団体は、東京の他の団体と違い、上方との交流が薄い。
弱小ゆえ集客のために、ありとあらゆる手段を取るため評判が悪い。
中でも「アンドロイド事件」は記憶に新しい。
「アンドロイド寄席」は評判の分かれるところだが、大入り満員だった。
大学と提携し、往年の名人そっくりのアンドロイドを作って落語をさせた。そこまでは良かったのだが、久しぶりの満員に興奮してしまった70代の落語家が「この師匠には若い頃どつかれましてね。仕返ししますよ、こら。」と頭をこずいた結果、アンドロイドが壊れてしまい、3億の賠償金請求をされて行方知らずになった事件だ。
他にも「スッポンポン大喜利事件」や「落語賭博事件」など、世間を騒がし、キワモノ扱いされて、他の団体の落語家に敬遠されている。
上方の落語家にとっては、そんなキワモノ団体の寄席に出ることはデメリットしかなく、また昔から交流のある団体も多数あるため、出演することはない。
しかし、芸の上で他の団体に劣っているかといえば、そうではなく、そこまでして話題を作らなければならない状況にあるというだけだ。

前座たちが次々に曽呂利新左衛門に自己紹介しにくる。子供の頃から、見ていた芸能人に会えた喜びに高揚している。
一通り挨拶を終えたので、曽呂利新左衛門が舞台袖の格子から客席を覗く。
満員の客席に「大入りやないか。」と驚く。
三玉斎が「そら、兄さん出はるからて、お客さん集まってきてはるんですわ」と返事する。
曽呂利新左衛門が、客席の様子と高座の様子を探り、今日の寄席の雰囲気を判断するためじっと聞いている。
前座たちは集中を邪魔しないように、お茶を出すタイミングを見計らう。
曽呂利新左衛門が納得したように、自分の化粧前へ移動したので、すかさずお茶を出す。
三玉斎は、舎弟のように曽呂利新左衛門について行く。

「この講談師の先生、若いのに、めっちゃ上手いな。驚きやわ。なんちゅう人や?」

曽呂利新左衛門が壁に張り出されている番組表を読む。三玉斎は「なるほど、講談師と捉えるのか」と納得する。

「兄さん、講談師とちゃいますねん。令和仏教の僧侶で 慈水 さんいう方ですわ。」
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