第3話 怒れる少女の誓い
文字数 854文字
胸に抱いている少女の温もりがどんどん冷たくなっていく。
高城アイシャ(たかぎ・あいしゃ)十七歳はその少女の栗色の髪を優しく梳いた。
ボブカットの柔らかな質感の髪は天使のようにさらさらだ。生気を失った少女の可愛らしい顔をアイシャは見下ろす。薄い眉と閉じられたままの大きな目。小さな鼻と口が呼吸をすることはもうない。三日月を模したイヤリングをつけた耳が波音を聞くこともないだろう。
華奢な身体を貫いた刃の傷は彼女の愛猫の最後の力によって塞がれていた。割かれた服の跡が彼女の受けたはずの傷の深刻さを物語っている。
もう少女は目覚めない。
彼女はもう微笑まない。
アイシャは天を仰いだ。
暗青の空に丸い月がぽっかりと浮かんでいる。星々のきらめきは騒々しいほどのノイズにしかアイシャには思えない。それなのにあたりは静かだった。ただ波の音と船に打ちつける波の悲鳴だけが響いていた。
アイシャの切れ長の目から涙が溢れてくる。つんとした鼻をすすり、薄い口を大きく開いて避けんだ。
「ソウルハンターッ!」
美しい顔を彼女は歪める。ショートカットの黒髪を振り乱し、ぎゅっと拳を握った。
とめどなくこみ上げてくる感情は熱く激しい。どす黒く自分でもどうしようもなく抑え難かった。
自分の中にいる「それ」は煽るように諭すように彼女に囁いてくる。
怒れ。
怒れ。
怒れ。
黒とはいえ身に纏った修道服には不似合いな言葉。だがアイシャはそれを受け容れた。彼女は神を信じていない。信仰などとうに失われていた。
神は家族を守ってくれなかった。修道院の仲間を助けてくれなかった。恩人であり母親代わりであったシスターマリーを見殺しにした。
神はあたしの大切な人たちを救ってくれなかった。
怒れ。
怒れ。
怒れ。
アイシャはもう一度、月に向かって吠える。
「ソウルハンターッ!」
神秘なる月夜の空に彼女の怒りが広がる。
「許さない! たとえ神が許しても、あたしが許さないっ!」
星神島へと進路をとる連絡船の甲板で怒りの精霊と契約した少女は絶叫した。
高城アイシャ(たかぎ・あいしゃ)十七歳はその少女の栗色の髪を優しく梳いた。
ボブカットの柔らかな質感の髪は天使のようにさらさらだ。生気を失った少女の可愛らしい顔をアイシャは見下ろす。薄い眉と閉じられたままの大きな目。小さな鼻と口が呼吸をすることはもうない。三日月を模したイヤリングをつけた耳が波音を聞くこともないだろう。
華奢な身体を貫いた刃の傷は彼女の愛猫の最後の力によって塞がれていた。割かれた服の跡が彼女の受けたはずの傷の深刻さを物語っている。
もう少女は目覚めない。
彼女はもう微笑まない。
アイシャは天を仰いだ。
暗青の空に丸い月がぽっかりと浮かんでいる。星々のきらめきは騒々しいほどのノイズにしかアイシャには思えない。それなのにあたりは静かだった。ただ波の音と船に打ちつける波の悲鳴だけが響いていた。
アイシャの切れ長の目から涙が溢れてくる。つんとした鼻をすすり、薄い口を大きく開いて避けんだ。
「ソウルハンターッ!」
美しい顔を彼女は歪める。ショートカットの黒髪を振り乱し、ぎゅっと拳を握った。
とめどなくこみ上げてくる感情は熱く激しい。どす黒く自分でもどうしようもなく抑え難かった。
自分の中にいる「それ」は煽るように諭すように彼女に囁いてくる。
怒れ。
怒れ。
怒れ。
黒とはいえ身に纏った修道服には不似合いな言葉。だがアイシャはそれを受け容れた。彼女は神を信じていない。信仰などとうに失われていた。
神は家族を守ってくれなかった。修道院の仲間を助けてくれなかった。恩人であり母親代わりであったシスターマリーを見殺しにした。
神はあたしの大切な人たちを救ってくれなかった。
怒れ。
怒れ。
怒れ。
アイシャはもう一度、月に向かって吠える。
「ソウルハンターッ!」
神秘なる月夜の空に彼女の怒りが広がる。
「許さない! たとえ神が許しても、あたしが許さないっ!」
星神島へと進路をとる連絡船の甲板で怒りの精霊と契約した少女は絶叫した。