第38話 間話・ソウルハンターはカードをかざす

文字数 1,219文字

「うおごぉっ!」

 突然ジョンKが異様な呻きを発して膝をついた。

 浅黒かった顔を蒼白にさせ、口から泡を吐いて前のめりに倒れる。屈強そうな身体をピクピクと痙攣させていた。

「ふむ」

 ソウルハンターは紺色の制服を着た警備員を見下ろした。腕を組み、左手の親指と人差し指で自分の顎を撫でる。じっくりと観察するまでもなかった。これはステッペンウルフが敗れたことによる契約者(リンカー)本体へのフィードバックだ。

 ジョンKと嗅覚の精霊との結びつきは非常に強い。

 それゆえ広範囲での遠隔操作が可能となっていた。さらに、ステッペンウルフのオリジナルとなる一体さえ残ればコピーがいくらやられても分裂して作り出すこともできる。ある意味無敵だ。極めて恐ろしい能力と言えよう。

 それなのに……。

「敗れるとはな」

 ステッペンウルフは逐一位置情報をジョンKに伝えていた。そしてジョンKはその都度ソウルハンターに報告している。

 ステッペンウルフがどこで敗れたのかソウルハンターにはわかっていた。問題はそれが水色館の近くであるということだ。

 水色館には魔女ドリスが居を移している。あの黒い修道女……アイシャを監視するためと本人は説明したがどこまで本当かは怪しいものだった。

 彼女は自分のためにアイシャを利用してアクセルと戦わせている。

 アクセルは決して品行方正な男ではなかった。むしろ粗野で下品だった。それが魔女には気に障ったのかもしれない。もしくは何回か行われたガンズアンドローゼズの射撃練習に島の人間を巻き込んだことが彼女の逆鱗に触れたのかもしれない。

 だが、施設から脱走した契約者(リンカー)の中にはアクセルのように住人を「的」にしている者もいる。

 いくつかの要因が積み重なった、と判じるしかなさそうだ。

 ジャスティンに抹殺命令を下したのもソウルハンターではなかった。

 ソウルハンターの名を使い指示したのは魔女だ。彼女はアクセルを亡き者にするために策謀を巡らせた。自らの手を汚さず邪魔者を排除する。真に恐ろしい存在は彼女なのかもしれない。

「しかし、彼女がいなければ揃うべきカードは手に入らない」

 自分は魔女を利用している。

 一方で、魔女も自分を利用している。

 納得できようとできまいと関係なく、これは受け容れねばならない。目的を果たすためには目を瞑らねばならなかった。

 あと少し、二枚のカードさえ入手できれば長年の望みが叶う。そのときには魔女も脅威ではなくなるのだ。

 水色館……か。

 ソウルハンターはジョンKを見遣り、くるりと背を向けた。彼の後始末はどうとでもなる。今はもっと大事なことがあった。

 ソウルハンターから影が浮かび上がる。

 影は腕を伸ばしキラキラとその手を銀色に輝かせた。光は収束すると一枚のカードとなる。影はそれをソウルハンターへと渡した。

 転移の精霊のカード。

 ソウルハンターは受け取ったカードを頭上にかざし、重々しくつぶやいた。

「これも運命か」
 
 
 
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