第61話 父母

文字数 836文字

 父の血圧が200を越える異常事態が続いています。急遽、担当医の診察を受けることになりました。

 前立腺癌の数値が上がり、別の薬にした途端、副作用が激しく出てしまった。担当医は血圧が下がるまで薬を止め、別の方法を考えると言った。父はそう言われた直後に

「今の薬以外の物はありませんか?」

と聞いた。今、医師が説明したばかりなのに、こう聞いた。最近、父の言動は少し怪しい所がある。と言うより理解しにくくなっている。父には母より先に逝けないとの思いが強い。

 父は母より6つも歳上だ。なのに母を残して死ねないという思いで今を生きている。母は自分の方が父を看取るつもりでいる。客観的に見れば、母の状態の方が深刻だ。

 遡れば、母は20代で胃腸を壊し、30代の子宮筋腫の手術で生死を彷徨い、50代で肝硬変と分かり、70代には肝がんに移行と言う病歴を持つ。結婚前までは、元気が取り柄の人だった。それなのに、結婚して数年で健康とは無縁の人生を歩むようになる。私が記憶する母は、身体の弱い人だ。

 両親は恋愛結婚。違う会社にいたのだが、お昼休憩によく顔を合わせていた父が見初め、母も応えたと父から聞いた。母は寺の住職の跡取り娘だった。当然、サラリーマンだった父との結婚を許されるはずもなく、親戚まで加わり反対されたようだ。何度かお願いに行ったであろうとき、母の母、つまり私の祖母が父に

「娘をお願いします」

と言ってしまった。それを聞いた住職である祖父は目を白黒させていたと、父はおどけて教えてくれた。祖母の一言が無ければ、私もこの世に居なかったかもしれない。そんな経緯が両親にはある。

 結婚生活の大半を母の病気と共に過ごしている間に、いつしか父は常に母の保護者になり、母は自分の意思を表に出さず、父に全てを託して生きるような人になってしまった。今では前述の病気以外にもいくつかの疾患がある母は父無しでは生きられない。それを父は自覚している。

 先日、弟嫁と話合い、母の介護認定申請をすることにしました。
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