第57話 何の気なしに

文字数 854文字

 自覚のない行動が増えてきたように思います。

「何でココにあるの?」

 思わず声に出して、独り言。洗濯機の中の衣類を出していたときだ。ゴム手袋があった。私が風呂掃除に使っているヤツ。もう片方が見つからない。団子状になった衣類の中に紛れていたが……いつの間に洗濯機に入れたのか。

 生活の中で何の気なしにやってしまう動作はある。ただ最近それが怖いなと思う状態だったりする。今朝のゴム手袋もそうだ。今まで一度も洗濯機に入れたことはない。昨日の晩などは夕食を作っているときに、ゆで卵をスライスする器具があるはずの場所に無くて慌てた。しょうがないと諦めて調理台を見たら、ちょこんと置いてあった。つい数分前に自分が出したのに、その動作を忘れていた。

 認知症になったら、冷蔵庫に財布を入れていたり、レンジにあろうはずのない物があったり……とそんな話を思い出す。今の私の行動は予備軍か?それとも何の気なしにで済ませていいものか?甘く判断して後者であってほしい。いや、あってもらわなければ困る。私はまだ、自分の身体にかかりきりになるわけにはいかない。

「Aさん(同居の弟嫁)に食事の用意をお願いすることになったんだけど、いくら渡せばいいかな?」

 父がそう電話してきた。父が言うのは食費のことではなく、作ってもらう対価のこと。免許を返納してから、月に何度かAさんに車を出してもらうのだが、その都度ガソリン代と称して幾らかの金を渡す。その行為に違和感があったが、部外者が口を出すことではないのでスルーしてきた。だが、今回の相談は同居の意味から逸脱しているように感じた。

 こんなとき、私はどうアドバイスしたらいいのか。父母は認知症ではないが、判断能力が低下している。下手な言い方をして間違った解釈をされたら厄介だ。とにかく働いた対価ではなく、金を渡すとしても、あくまで食費として渡してと、噛み砕いた理由を付けて話した。実家の生活に関わることまで考えなくてはいけない今の私に、ボケる暇などない。

 だから私は今日も頭を使って書いているのです。
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