37 ライトニングセイバーへの本当の想い

文字数 2,601文字

コピーながら、再びヘヴンジャッジが手に戻ったアーディスは、一度うなずくとリオンから目を反らし、トライブたちのほうに向き直った。

見ての通り、俺はこのゲームから脱落した。

俺に力はなかったってことなんだな。

そんなことないわ。


かりにも、「オメガピース」のソードマスターじゃない。

私にとっても、偉大な先輩にあたる立場よ。


お世辞じゃなく、ほぼ互角だった。どっちが勝っても、おかしくなかったと思う。

そうは言うかも知れないけど、ソードマスターっつーのは、慣れない剣でも勝ち続けなきゃいけない立場。

リオンにそれができて、俺がライトニングセイバーを操れなかったというのは、決着と同時に分かってしまった。


お世辞じゃなく、俺が弱いと言っていいと思う。

それは、よく言われることだと思う。

私だって、剣士たちに「どんな剣でも勝てる」って言ったりはする。


けれど、いざ他人の剣を持つと、慣れるまでは自分の力ひとつで何とかしなきゃいけないのも確かよ。

今まで、心が通じ合っていた剣を手放すわけだから、向こうもそんな簡単に、力なんか貸してくれない。

トライブ、それもたまに言ってるような気がする。

ソフィアの、タイミングよく入った言葉に、トライブは一度小さくうなずいてみせた。


うなずいたときの、空気の小さな振動が、リオンの素振り練習の音でかき消されていく。

私は、本当に信頼している剣士にしか、そういうことを言わないわ。

慣れない剣を持つことが、どれだけ大変かを言葉だけで分かってくれる人は、そんなにいないのだから。

まさに、今の俺だな。

身をもって、他人の剣をソウルウェポンにすることが大変だということが。


でも、俺がヘヴンジャッジを手にしたときも、今思えば、なかなか力を貸してくれなかったような気がする。

私もよ。


アルフェイオスは、長いこと洞窟に捨てられた、悲運の五聖剣。

私が見つけたとき、剣の声がこう言ったの。


どうせ負けるんだって。


強敵と戦うために生まれた五聖剣がそう叫んでいて、何とかしなきゃって、私の心が動いたの。

それで、今はアルフェイオスの最大の理解者になってるわけだろ。

それこそ……、他人の剣を自分のものにする能力が優れていると思う。

アーディス。


私のアルフェイオスは特殊よ。

それまで、誰一人として理解者がいなかった剣なんだから。

慣れない剣だけれど、既に誰かの心が刻み込まれた剣じゃなかった。


ヘヴンジャッジは、もともとアーディスの剣じゃなかったわけでしょ。

アーディスは、その状態から自分の力にしたわけよ。

トライブが言い終わるか言い終わらないかのうちに、アーディスの目はヘヴンジャッジの剣先を見つめていた。

そして、小さくうなずいた。

言う通りだ。きっとな。


リオンは、そのへん、どう思っているか聞いてみたいよ。な。

俺か……?

リオンは、ヘヴンジャッジを素振りするのをやめ、ゆったりとした足取りでトライブたちに近づいた。


剣先を下に向け、彼は新しい武器を軽く握りしめた。

リオン、今のヘヴンジャッジを自分の力にするのは大変?それとも、楽?

楽なわけがない。


さっきも、そのへんで話していたのを聞いていたけど、他人の剣を自分のものにするのは、剣と語り合う能力が必要だというのは、間違ってないと思う。

じゃあ、みんな同じじゃん。

ここにいるソードマスター3人が、みな同じ意見だということだ。

それは、どうかな。


アーディスは、ずっと俺を見てて、俺がそんな人間だと思う?

リオンの軽く笑う姿に、アーディスはやや顔をしかめる。

その間に、リオンはヘヴンジャッジの剣先をやや上げて、その目で剣先をじっと見つめた。

俺は、この剣を持たなきゃいけないって思ったから、それに逆らいたくないだけだよ。


本当は、親しみのあるライトニングセイバーを持ちたいし、実際そのほうが力を出せそうな気がする。

でも、今の俺はこのヘヴンジャッジで戦わなきゃいけない。だから、慣れない剣だって自分の力にできる。

なるほどね。

トライブは、リオンに何かを言おうとしたが、あとわずかのところで言葉にできなかった。

トライブ、いま何か躊躇したでしょ。

そうね……。


リオンがリオンらしいことを言ったような気がするって、言ったほうがよかったのかも知れない、って思っただけよ。

トライブは、ソフィアの耳元でそう言った。

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、リオンがトライブに一歩ずつ近づいてきた。

いいこと思いついたよ。


持ち手が慣れない五聖剣と、持ち手が慣れ過ぎている五聖剣。

どちらが強いか、近いうちに決めたらどうだろう。

リオン。いつかはそれをやったほうがいいのは確かよ。

でも、展開が速いわ。


私たちやオルティス以外にも、ソウルウェポンを持っている剣士が「ソードレジェンド」の中にいるかも知れないんだし、私たちの中での頂上決戦は最後にしたほうがいいと思う。

俺のヘヴンジャッジの力を見ちゃったからって、逃げとかじゃないよね。

私が逃げるわけないじゃない。


それは、「クィーン・オブ・ソード」のプライドを捨てる行為よ。

それでも、今はやめておくってことか。



もしかして、何か理由があってそんなこと言ってる?

トライブとリオンが、ちょうど向き合う位置に立ち、地下通路の薄暗い光に照らされている。

その二人を、トライブの斜めからソフィアとアーディスが見つめる形になった。

今は、オルティスを止めなきゃいけないのよ。

私たちを、本気で狙ってるわ。


しかも、とどめを刺す手前まで二刀流で……。

二刀流……。


待って、トライブ。

オルティスは、あの刀がソウルウェポンだと思うけど。

たしかに、オルティスのソウルウェポンは、あの刀。


でも、彼はいま、バルムンクも手にしている。

「ゲームマスター」との取引で、五聖剣の一つを、オルティスが持ってしまったのよ。

オルティスが、他人の剣を操ることができれば、本当に五聖剣どうしの戦いになってしまう。

しかも、二刀流って……。


トライブは、もしかしてバルムンクを持つオルティスと戦ったんだよな。

そういうこと。


それどころか、オルティスは二刀流を完成させようと、いま懸命に特訓してると思う。

そうなったとき、まずリオンが狙われるわ。

同じように、最近自分のソウルウェポンとなった五聖剣を持っているのだから。

そういうことか……。
リオンは小さくうなずくと、そのまま地下通路の出口へと体の向きを変えた。
どこ行くのよ。

決まってるじゃん。


俺たちの最大の宿敵を追うんだよ。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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