04 ストリームエッジは闇へと消えた

エピソード文字数 2,687文字

私にも理解できないことは、全部で三つあるわ。


一つは、どうしてオルティスがこの世界にいるのか。

さっき、トライブが未来の世界で戦ったとか、私たちより後のソードマスターとか言ったような気がする……。


つまり、オルティスは未来にいる剣士ってこと?

そう。


だからこそ、このゲームの世界にオルティスがいることがおかしいと思うの。

普通は、未来の世界から剣士を送り込むわけないでしょ。

たしかに、時空転送の魔術を使えば、一定時間過去の剣士を呼び寄せることはできる。

トライブも、その魔術で未来の世界へと転送された。

だが、現在より後の剣士を、時空転送の魔術で呼び寄せることは不可能だ。


その時、ソフィアが何かに気が付いた表情を浮かべた。

最強の剣を決めるバトルなんだから、必要なのは私たちじゃなくて、剣。


きっと、この世界に集められたのは、その剣を使った一番強い剣士だと思う。

それなら、違う時代の剣士が呼ばれるという説明が付くような気がするんだけど……。

それは、確かに言えるかもしれない。


でも、未来からオルティスが来てるのよ。分からないのはそこなの。

それなら、時点を動かせばいいじゃない。

オルティスのいた時代より後と考えれば、未来の誰かが私たちやオルティスを呼んだってことでいいんじゃない。

ソフィアの返事を聞いた瞬間、トライブは思わずはっとした。

あまりにも簡単に解決できたことで、かえって恥ずかしさを覚えるしかなかった。

それなら、ソフィアが本当にオルティスと戦ったってことになるのよね。


でも、二つ目の疑問は、ソフィアの持っているその刀よ。

どうして、オルティスが持っていたはずの刀を、負けたソフィアが持ってなきゃいけないのよ。

私も、トライブにオルティスの話をされて、すぐにおかしいと思った。

普通、武器ってその人が戦うのに絶対に必要なもののはずなのに、オルティスは私にその刀を持たせたってことになるわけね。

そう言いながらも、ソフィアがゆっくりと刀を正面に向け、軽く振ろうとする。

だが、ストリームエッジを持っているときよりも明らかに使いづらそうだということが、トライブの目に痛々しいほど飛び込んできた。

やっぱり、今まで使っていなかった武器を使うって、大変でしょ。

トライブだって、前に剣を折ったときに私に同じこと言ってたじゃない。

扱いづらいかもって。

言ってたわ。


理想は、どんな剣でも最高の力を出せるのが剣士だけど、やっぱり私にはアルフェイオスで、ソフィアにはストリームエッジ、そしてオルティスにはその刀が最も強い力が出せる武器なのよ。


だから、オルティスがソフィアの手に刀を置くことなんてありえないと思う。

トライブは、やや考えるしぐさを浮かべながら、もう一度ソフィアに渡った刀をじっくり見る。


その刃の鋭さと言い、刀のサイズと言い、かつてトライブがオルティスと戦ったときの刀そのものであることに、変わりはなかった。

そうなると、三つ目の疑問はそのストリームエッジなのよ。


わざわざ自分の刀を渡す理由もないし、オルティスが簡単に使えるはずもないストリームエッジを持ち出す理由も分からない。

このゲームのシステムに、何かあるんじゃない?


その何かが、私にも分からないんだけど……。

完全に八方塞がりだった。


ソフィアがオルティスに敗れたという事実しかないはずなのに、そこにはいくつもの不思議な現象が起こっている。

その謎こそが、「ソードレジェンド」というゲームの特徴なのかもしれないが。



しばらくして、トライブの脳裏に「ゲームマスター」を名乗る男からの言葉がかすかに響いた。

剣を守り切れ――
もしかして、このゲーム……。

トライブは、足元が震えているのを感じずにはいられなかった。

ソフィアの持ってしまった刀と、まだ守り切っているアルフェイオスを同じ視線で見たとき、トライブにはその言葉の意味するところが否応なしに分かってしまうのだった。

どうしたの、トライブ。


急に青ざめた表情を浮かべちゃって……。

そうね……。


いま、ものすごくショックなことを思い浮かべちゃって……、このシステムを考えた人を少し許せなくなったような気がする。

トライブ……。


このシステムって、まさか……。



私の剣は、どうなってしまうの……?

ソフィアが半泣きになって、トライブに尋ねる。


だが、トライブがようやく口を開こうとした瞬間、彼女の目は遠くにいる「宿敵」を捕らえた。

オルティスが、少しだけ見えた。


私たちの居場所がバレたわ。

トライブがそう言っている間も、オルティスはその場に立ち止まり、逆にオルティスの側がトライブをはっきりと捕らえた。


すぐに向きを変えたオルティスが、決して走ることなくトライブたちへと迫ってくる。

逃げても無駄だった。


トライブは、オルティスに向けて真っすぐアルフェイオスを伸ばす。

すると、アルフェイオスと思われる小さな声が、トライブの耳にかすかに響いた。

戦いたい。


オルティスの刀に、俺は勝ちたい……。

私とオルティスが戦うしかないようね。

やがて、オルティスがトライブたちの前に立ち、ゆっくりと鞘に手を伸ばした。

トライブは、思い浮かんでいた仮説を、もう一度心の中で言い聞かせた。


オルティスの持っているのは、その刀だと。

オルティスが、同じ刀を持っている……!

やっぱり……、そうなったわけね……。

歯を食いしばるような表情で、オルティスの持っている刀を見つめるソフィア。

仮説が当たってしまったことで、より一層目を細めるトライブ。


二人を前に、オルティスは刀を構えることをせず、そのまま静かに収めた。

お前が戸惑うのも、無理はないだろうな。

ソフィアの持っていた剣は、俺の刀に従った。

従った、ってどういうことよ……。


やっぱり、ストリームエッジはなくなってしまうわけ?

すると、オルティスは軽く笑いながらトライブを見つめた。

お前ら、「ゲームマスター」から何も伝えられていないようだな……。


この世界では、強い剣だけが生き残る。

敗れた剣は「ゲームマスター」によって闇の世界へと葬られ、敗者には勝者の武器のコピーが渡されるということだ。


ソフィアが、俺の刀を持っているのは、ルール以外の何物でもない。

それはあんまりじゃない……。


ソフィアは、あなたの刀を簡単に操ることなんかできないのに……。

文句があるなら、「ゲームマスター」に言え。


それと、腹いせに俺を破ろうなんて、間違ってもするな。

お前との勝負は、残りのソウルウェポンの数が減ってきたときに行う。

そう言いきると、オルティスは素早くトライブに背を向け、歩き出してしまった。


トライブは追いかけることもできず、ただ戸惑いの表情を浮かべるだけだった。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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