04 ストリームエッジは闇へと消えた
文字数 2,687文字
たしかに、時空転送の魔術を使えば、一定時間過去の剣士を呼び寄せることはできる。
トライブも、その魔術で未来の世界へと転送された。
だが、現在より後の剣士を、時空転送の魔術で呼び寄せることは不可能だ。
その時、ソフィアが何かに気が付いた表情を浮かべた。
最強の剣を決めるバトルなんだから、必要なのは私たちじゃなくて、剣。
きっと、この世界に集められたのは、その剣を使った一番強い剣士だと思う。
それなら、違う時代の剣士が呼ばれるという説明が付くような気がするんだけど……。
ソフィアの返事を聞いた瞬間、トライブは思わずはっとした。
あまりにも簡単に解決できたことで、かえって恥ずかしさを覚えるしかなかった。
それなら、ソフィアが本当にオルティスと戦ったってことになるのよね。
でも、二つ目の疑問は、ソフィアの持っているその刀よ。
どうして、オルティスが持っていたはずの刀を、負けたソフィアが持ってなきゃいけないのよ。
そう言いながらも、ソフィアがゆっくりと刀を正面に向け、軽く振ろうとする。
だが、ストリームエッジを持っているときよりも明らかに使いづらそうだということが、トライブの目に痛々しいほど飛び込んできた。
言ってたわ。
理想は、どんな剣でも最高の力を出せるのが剣士だけど、やっぱり私にはアルフェイオスで、ソフィアにはストリームエッジ、そしてオルティスにはその刀が最も強い力が出せる武器なのよ。
だから、オルティスがソフィアの手に刀を置くことなんてありえないと思う。
トライブは、やや考えるしぐさを浮かべながら、もう一度ソフィアに渡った刀をじっくり見る。
その刃の鋭さと言い、刀のサイズと言い、かつてトライブがオルティスと戦ったときの刀そのものであることに、変わりはなかった。
完全に八方塞がりだった。
ソフィアがオルティスに敗れたという事実しかないはずなのに、そこにはいくつもの不思議な現象が起こっている。
その謎こそが、「ソードレジェンド」というゲームの特徴なのかもしれないが。
しばらくして、トライブの脳裏に「ゲームマスター」を名乗る男からの言葉がかすかに響いた。
トライブは、足元が震えているのを感じずにはいられなかった。
ソフィアの持ってしまった刀と、まだ守り切っているアルフェイオスを同じ視線で見たとき、トライブにはその言葉の意味するところが否応なしに分かってしまうのだった。
ソフィアが半泣きになって、トライブに尋ねる。
だが、トライブがようやく口を開こうとした瞬間、彼女の目は遠くにいる「宿敵」を捕らえた。
トライブがそう言っている間も、オルティスはその場に立ち止まり、逆にオルティスの側がトライブをはっきりと捕らえた。
すぐに向きを変えたオルティスが、決して走ることなくトライブたちへと迫ってくる。
逃げても無駄だった。
トライブは、オルティスに向けて真っすぐアルフェイオスを伸ばす。
すると、アルフェイオスと思われる小さな声が、トライブの耳にかすかに響いた。
戦いたい。
オルティスの刀に、俺は勝ちたい……。
やがて、オルティスがトライブたちの前に立ち、ゆっくりと鞘に手を伸ばした。
トライブは、思い浮かんでいた仮説を、もう一度心の中で言い聞かせた。
オルティスの持っているのは、その刀だと。
歯を食いしばるような表情で、オルティスの持っている刀を見つめるソフィア。
仮説が当たってしまったことで、より一層目を細めるトライブ。
二人を前に、オルティスは刀を構えることをせず、そのまま静かに収めた。
お前ら、「ゲームマスター」から何も伝えられていないようだな……。
この世界では、強い剣だけが生き残る。
敗れた剣は「ゲームマスター」によって闇の世界へと葬られ、敗者には勝者の武器のコピーが渡されるということだ。
ソフィアが、俺の刀を持っているのは、ルール以外の何物でもない。
そう言いきると、オルティスは素早くトライブに背を向け、歩き出してしまった。
トライブは追いかけることもできず、ただ戸惑いの表情を浮かべるだけだった。