05 ソウルウェポン
文字数 2,593文字
オルティスの赤い髪が風と同化して見えなくなってしまうと、トライブは小さくため息をついて、アルフェイオスの剣先に目をやった。
今にもオルティスに勝負を挑みたい。彼女の手は、はっきりとそのことを感じていた。
それにしても、どうしてオルティスはそこまでこのゲームのルールを知ってるんだろう。
ソウルウェポンとか、私もトライブも知らない言葉を使ってたし、私が刀のコピーを渡されてしまったこともあっさりと言ってるし……。
分からない。
でも、私が出会った「ゲームマスター」は、あんな声をしていなかった。
エコーでもかかったかのような声で、もう少し落ち着いていた。
それに、「ゲームマスター」は腰から下が見えなくて、黒いシルエットでしか私たちの前に現れていないはずなのよ。
だから、絶対オルティスじゃない。
トライブは、とりあえずオルティスの消えていった方向に歩き出した。
動き出した影を、ソフィアの靴が追いかけていく。
しばらく歩いていると、ソフィアの口が何かを思い出したかのように開いた。
それしか考えられないわね。
つまり、この世界に送られた時点で、ストリームエッジがソフィアのソウルウェポン、アルフェイオスが私のソウルウェポン。
もちろん、その刀だってオルティスのソウルウェポンってことになりそうな気がする。
何度か首を横に振るソフィアを、トライブは見つめることしかできなかった。
ソウルウェポンの数が減ってきたところで、オルティスが戦いを挑むと言った以上、この世界に他にもソウルウェポンを持った剣士が数多く送り込まれたことは間違いない。
いつ、誰が出てくるか分からない恐怖が、普段から剣を交わしあう二人の間に潜んでいた。
ソフィアがかすかに笑いながら言うと、トライブも表情が少しだけ和らいだように思えた。
二人のいる場所よりはるかに北側の、うっそうと茂った森の中。
そこで、一人の剣士が目を覚ました。
トライブの8代前のソードマスター、リオンもこの「ソードレジェンド」の世界に送り込まれていた。
トライブと同じように、足元に黒い影が現れ、引きずり込まれるように。
今にもモンスターが出てきそうなほどの暗い森で立ち上がったリオンは、すぐにライトニングセイバーを手に持って、左右を見渡した。
青い旗の騎士団――それは、リオンが10代の頃に率いた自警団のことだった。
彼の故郷ルーファスが次々とモンスターに襲われているのを見て、リオンとその仲間たちが武器を持って立ち向かった、最初は街非公認の騎士団だった。
だが、彼らの力で次々とモンスターを撃退するようになると、いつしかその騎士団は街のヒーローとなり、非公認だった組織が公認されるまでになっている。
「青い旗の騎士団」から「オメガピース」のソードマスターに上り詰めた剣士が3人もいるほど、この組織はレベルが高かったのだ。
勿論、リオンもその一人だ。
その時だった。
ちょうど木と木の間が開けたところで、リオンは黒い人影を見た。
人影というより、浮かんでいる幽霊のようだ。
そして、真っ黒。
リオンは、やや歩幅を縮めながら「ゲームマスター」のシルエットの前に立った。
すると、そのシルエットが軽く笑ったような声を発する。
リオンも、「ゲームマスター」に対抗して、軽く笑うようなしぐさをあからさまに見せ、すぐにこれまで何度も強敵に打ち勝ってきた剣、ライトニングセイバーをその「ゲームマスター」に向けた。
だが、「ゲームマスター」は全く怯えなかった。
突然告げられた事実に、リオンは息を飲み込み、険しい表情を「ゲームマスター」に向けた。
ライトニングセイバーを持つリオンの手が、より強く握りしめられる。
お前はそう言うかもしれないが、この世界のことわりは、お前の言葉を信じることができない。
たとえ、その剣で力を証明したとしてもだ。
そして、ソウルウェポンを持っていない以上、たとえその剣で相手を倒したとしても、何もゲームは動かない。