05 ソウルウェポン

エピソード文字数 2,593文字

戦わずして、行っちゃったね……。

オルティスは、ただ私たちに忠告をしに来ただけだったのかも知れない。

そうね。


もし最強の剣を決めたいんだったら、アルフェイオスに勝負を挑むはずよ。

オルティスは、ソフィアよりも私のほうが強いって知ってるはずだし。

オルティスの赤い髪が風と同化して見えなくなってしまうと、トライブは小さくため息をついて、アルフェイオスの剣先に目をやった。


今にもオルティスに勝負を挑みたい。彼女の手は、はっきりとそのことを感じていた。

それにしても、どうしてオルティスはそこまでこのゲームのルールを知ってるんだろう。

ソウルウェポンとか、私もトライブも知らない言葉を使ってたし、私が刀のコピーを渡されてしまったこともあっさりと言ってるし……。

分からない。


でも、私が出会った「ゲームマスター」は、あんな声をしていなかった。

エコーでもかかったかのような声で、もう少し落ち着いていた。


それに、「ゲームマスター」は腰から下が見えなくて、黒いシルエットでしか私たちの前に現れていないはずなのよ。

だから、絶対オルティスじゃない。

じゃあ、いろいろと「ゲームマスター」から伝えられたってことしか考えられないのね。

私たちも、この世界のルールを一緒に学ぶしかない。

そうね……。

トライブは、とりあえずオルティスの消えていった方向に歩き出した。

動き出した影を、ソフィアの靴が追いかけていく。


しばらく歩いていると、ソフィアの口が何かを思い出したかのように開いた。

ソウルウェポン、なんとなく分かったような気がする。

たぶん、私たちが本来持っているべき武器のことね。

それしか考えられないわね。


つまり、この世界に送られた時点で、ストリームエッジがソフィアのソウルウェポン、アルフェイオスが私のソウルウェポン。


もちろん、その刀だってオルティスのソウルウェポンってことになりそうな気がする。

そして、私がオルティスの刀を持っていても、ソウルウェポンとは言わない。


ということは、私がこれを持って負けたとしても、今度は武器を失わないはず。

そうね……。


でも、たとえ武器を持っていたとしても、それがストリームエッジじゃないって思うと、私だって痛々しく思うし、ソフィアはそれ以上に辛い思いをしているはずよ。

それはもう、間違いないことよね……。

何度か首を横に振るソフィアを、トライブは見つめることしかできなかった。


ソウルウェポンの数が減ってきたところで、オルティスが戦いを挑むと言った以上、この世界に他にもソウルウェポンを持った剣士が数多く送り込まれたことは間違いない。

いつ、誰が出てくるか分からない恐怖が、普段から剣を交わしあう二人の間に潜んでいた。

とにかく、私はアルフェイオスを守り切る。

そして、ソフィアのソウルウェポンを何としても見つけだす!

さすが、「クィーン・オブ・ソード」。

言うことが違うね。

ソフィアがかすかに笑いながら言うと、トライブも表情が少しだけ和らいだように思えた。



二人のいる場所よりはるかに北側の、うっそうと茂った森の中。

そこで、一人の剣士が目を覚ました。

ここは……。


俺はどこに迷い込んでしまったんだ……。

トライブの8代前のソードマスター、リオンもこの「ソードレジェンド」の世界に送り込まれていた。

トライブと同じように、足元に黒い影が現れ、引きずり込まれるように。


今にもモンスターが出てきそうなほどの暗い森で立ち上がったリオンは、すぐにライトニングセイバーを手に持って、左右を見渡した。

ソードレジェンドって言ってる以上、たくさんの剣や剣士が出てきそうな気がする。


もしかしたら、俺たちのいた騎士団からもエントリーしているのかもな……。

青い旗の騎士団――それは、リオンが10代の頃に率いた自警団のことだった。


彼の故郷ルーファスが次々とモンスターに襲われているのを見て、リオンとその仲間たちが武器を持って立ち向かった、最初は街非公認の騎士団だった。

だが、彼らの力で次々とモンスターを撃退するようになると、いつしかその騎士団は街のヒーローとなり、非公認だった組織が公認されるまでになっている。


「青い旗の騎士団」から「オメガピース」のソードマスターに上り詰めた剣士が3人もいるほど、この組織はレベルが高かったのだ。

勿論、リオンもその一人だ。

できれば、アーディスとかこの世界に呼ばれて欲しいな。

強い剣士ほど、俺は戦いがいがあるけどさ。

その時だった。


ちょうど木と木の間が開けたところで、リオンは黒い人影を見た。

人影というより、浮かんでいる幽霊のようだ。


そして、真っ黒。

まさか、俺をこのゲームに誘った「ゲームマスター」じゃないだろうな……。


あの時床に浮かんだ顔とそっくりだ……。

リオンは、やや歩幅を縮めながら「ゲームマスター」のシルエットの前に立った。

すると、そのシルエットが軽く笑ったような声を発する。

それがお前のソウルウェポンか……?

ソウルウェポン……。


俺が聞いたことも用語を使わないで欲しいな。

リオンも、「ゲームマスター」に対抗して、軽く笑うようなしぐさをあからさまに見せ、すぐにこれまで何度も強敵に打ち勝ってきた剣、ライトニングセイバーをその「ゲームマスター」に向けた。


だが、「ゲームマスター」は全く怯えなかった。

ソウルウェポンは、その剣と心から結ばれた、いわば「真の使い手」。

お前は、この剣の真の使い手とは言えない。

違う……。


「ゲームマスター」、待ってくれよ!

俺には、この剣しかないんだ!

突然告げられた事実に、リオンは息を飲み込み、険しい表情を「ゲームマスター」に向けた。

ライトニングセイバーを持つリオンの手が、より強く握りしめられる。

お前はそう言うかもしれないが、この世界のことわりは、お前の言葉を信じることができない。


たとえ、その剣で力を証明したとしてもだ。


そして、ソウルウェポンを持っていない以上、たとえその剣で相手を倒したとしても、何もゲームは動かない。

じゃあ、どういうことだよ。


俺は……、どうしてこの世界に呼ばれたんだよ。

最強の剣を決めるバトルに参加する資格がないってことじゃんか!

勿論だ。


だが、お前を呼んだのには理由がある。

それを今教えるわけにはいかない。お前自身の手で、それを見つけるんだ。

ちょっ……!
「ゲームマスター」のシルエットがフェードアウトし、叫ぶように言ったリオンの声が残像として残されるだけだった。
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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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