27 一番頼りになる友達

文字数 2,510文字

リオンとアーディスがリバーサイドタウンのほうに歩いて行くと、その場でリオンに向いていたはずの「ゲームマスター」も、その気配すら消していた。


穏やかな日が包み込む中、そこにはトライブとソフィアだけが残された。

結局、リオンの剣がアーディスのソウルウェポン、アーディスの剣がリオンのソウルウェポンだったってことになるわけね。

まぁ、「ゲームマスター」が言うのなら間違いないわね。


でも、トライブ。

意外とあっさり過ぎたように見えなかった?

そうね。

一番自然な流れだけど、もっと冒険とかバトルとか見たかったような気がする。


同じ騎士団で戦っていたから、そこまで本気のバトルはしなかったと思うけど。

物足りない感あったでしょ。
そういう言葉で片付けていいものなのか、私には分からないわ。

そう言って、トライブはソフィアの目を見た。

それでも、まだソフィアの表情が澄んでいるようには見えなかった。


トライブは一度うなずいてから、ソフィアに尋ねた。

ソフィア。


私の見間違いかも知れないけど、アーディスのこと、今もものすごく心配してない?

心配してるというか、何て声を掛けていいのか分からなくて……。


彼がこのままソウルウェポンを手にしたら、この後「ソードレジェンド」はどういうことになるのか、って考えてるだけ。

前向きに考えれば、あるべき構図になるってことじゃない。


いま、オルティスも含めたら5人が全員ソウルウェポンを持っていることになる。

最低でも、その5人で最強の剣を決めなきゃいけないってことじゃない。

本当は、そういう展開が理想なのよね。


でも、この世界、絶対に何かがあるような気がしてならない。

ソフィアのため息が、トライブの耳にはっきりと伝わった。

その吐息をかき消すように、トライブは少しだけその顔を上げた。

私も、「ゲームマスター」が何か別のことを考えてそうな気がしてならない。


あの手に、五聖剣のうち二つを持っていた段階で、「ゲームマスター」もこのバトルに参戦してきそうな気がするのよね。

トライブ、何日か前にもそう思ったでしょ。


占い師の家の前で、私の剣を持った「ゲームマスター」を見たときなんか、そう思わなかった?

思った。


ルール上は戦っていいわけないんだし、それ以上に彼が他人のソウルウェポンを自らのソウルウェポンにするわけがない。

この世界で、私たちと戦って、私たちから剣を奪うということはないはずよ。

トライブはそこまで言うと、その瞳の奥に真夜中の「ゲームマスター」の立ち姿を思い浮かべた。

その時、決して「ゲームマスター」が剣を向けようとしなかった理由を、トライブは懸命に思い出そうとしていた。



数秒後、トライブの脳裏に言葉が浮かんだ。

またいつか、お前と戦わなければならないようだ。

その時まで待ってろ。

……っ!
トライブ、何か分かったの?

たぶん、「ゲームマスター」が最終的な目標にしているのは、私よ。


「ゲームマスター」が私と戦うようなことを口にしていたわ。

その時、ソフィアがトライブを細目で見つめた。

その口は、時折何かを言おうとしては口をつぐみ、つぐんでは何かを言おうとする、落ち着きのないものだった。


そして、思い詰めた後にソフィアがそっと言葉を返した。

トライブ、それ本気で言ってるの?


いつものように、強敵と戦いたいからじゃなくて……?

そんな、決して希望じゃないわ。

あの夜、本当に言ってた言葉なんだから。

そうなのね……。


でも、私はトライブの推理には賛成できない。

ソフィアの声は、時折小さくなっていたが、それでも必死に何かを伝えようとしていた。

トライブの目がソフィアを見つめる中で、ソフィアはかすかにうなずいた。

ソフィアも、やっぱり何か秘密を持ってるのね。


たぶん、私にはそれが何か分かる。

待って、トライブ。


きっと思った通りで大丈夫だと思う。

お願いだから口に出して言っちゃダメ。

どうしてよ。

いま、この場所に誰もいないじゃない。


ソフィアの気持ちは分かるけど、お互いがバラバラに情報を持っていたら、きっと動くべき物語も動かなくなると思う。

それでも……、私は「ゲームマスター」に言われているの。


この剣との交換条件として……、「ゲームマスター」の野望を決して口にしないという……。

ソフィア……。

それが交換条件だったってわけね……。

トライブは、そこで言葉を止めた。

ソフィアに何かを言って欲しい、と声を掛けてもムダだと分かっていた。


それでも彼女は、何度となく剣を交わしているうちに、ソフィアのどう悩んでいるかは表情だけで分かっていた。

だからこそ、ここでトライブはあっさりと話を反らすことはできなかった。



しばらく、ソフィアの目を見続けた。

すると、ソフィアの顔がやや下を向いた。

トライブ……。


やっぱり、何も言わないのは苦しくなってきた。

トライブにも迷惑をかけちゃうわけだし……。

そう言うと、ソフィアは思わずトライブの胸に飛び込び、一筋の涙をその目からこぼした。

その肌の感触をよく知るトライブが、ソフィアの悩みを強く抱きしめた。

ソフィア……。


無理しないで、全部言ってちょうだい。

言う。


言うよ。



だって、トライブは……、私が一番頼れる友達だし、ただ一人頼れる剣士だもの……。

そう言うと、ソフィアはトライブの耳にそっと、ある人物の名前を告げた。

トライブは、その名前を告げられるのとほぼ同時にうなずいた。

まずいことになったじゃない。

リオンたちを追いかけた方がいいかも知れない。

「ゲームマスター」は神出鬼没だから、ソウルウェポンを持った時点で何をしてくるか分からない……!

その時だった。


ソフィアのやや後ろで、大地から黒い手が伸びてくるのがトライブの目に見えた。

黒い手は徐々に地上に姿を現し、すぐにその頭まではっきりと見えるようになった。

ソフィア、後ろを見て!

「ゲームマスター」よ!

まずい……。


私、殺される……!

ソフィア、どういうこと?

ソフィアは懸命にトライブの後ろに回り込もうとしていた。

だが、ソフィアの体が動いた瞬間、ソフィアは背中から「ゲームマスター」のシルエットに抱きつかれ、そのまま首筋を掴まれてしまった。

言いつけを守らぬ、愚かな女剣士よ。

私の裁きの前に、この世界で永遠に息絶えるが良い。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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