36 闘い合う二人

文字数 2,651文字

オルティスが街から出るのを見たとき、トライブはアルフェイオスを携えたまま、ふうと息をついた。

だが、すぐに大きく息を吸い込もうと口を開いたとき、トライブは思い出したようにその口を閉ざした。


トライブの脳裏に、アーディスの言葉がかすかに突き刺さった。

俺は、このゲームを本気で制したいからな。

さっき変な邪魔が入って、二人でいろいろやっていたようだが、俺はあくまでも真っ当な方法で勝ちに行く。

あの二人を置き去りにしているけど、大丈夫かしら……。

トライブの足が、考えるよりも早く街の中心部に向き、そのまま彼女は地下通路の入口に向けて走り出した。


トライブが通路から出た宿屋周辺からは、この時大きく離れてしまっていたが、トライブはやや早足で戻っていく。その目で自分の辿った経路を追いながら、彼女はリバーサイドタウンの街の中を突き進む。

私がいない間に、変なことになってなきゃいいけど……。

トライブは、数分で地下通路の入口に戻り、急いで下まで降りた。


その時、トライブの足が見えたタイミングでソフィアの足音がトライブの耳に響いた。

トライブ……!

あの二人を止めて……!


私じゃ手に負えない。

どうしたのよ……!

トライブは、ソフィアの目をじっと見つめ、その後すぐに通路の奥を見た。


剣がぶつかり合う音だけが、地下通路の中に響く。

例の二人の姿は、遠すぎて見えない。

決戦と言って、アーディスがまず私に襲いかかってきた。

トライブがオルティスと戦ってるかも知れないのに……って、すぐにリオンが止めに入ったんだけど……、今度はアーディスがリオンにライトニングセイバーを向けて……。

ソフィアの右手にはストリームエッジがしっかりと握られていたが、ソフィア本人はいかにも攻撃を受けたようにやつれていた。

アーディスが本気で戦闘に出た証拠だ。

アーディス、本気でこのゲームの勝者を決めようとしてるのよ。

私やソフィア、それにオルティスも含めて……、全てのソウルウェポンを落とした剣士が勝者になるわけだから。


で、リオンはアーディスと本気で戦ってるの?

ソフィアの首が、力なくうなずいた。

その瞬間、トライブはやや目を細めて、音の聞こえる方へ体を向けた。

ソフィア。

止めるしかないじゃない。


今は、そんな戦っている場合じゃない。

オルティスが、リオンのヘヴンジャッジを狙おうとしているのよ。

やっぱり、オルティスは五聖剣狙いなわけね。
詳しいことは、後で言うわ。

そう言うとトライブは、ソフィアの手を取って、そのままリオンたちが戦っていると思われる場所へと賭けだした。ソフィアが軽くうなずくと、トライブはそのスピードを上げた。



通路がT字路になっているところを曲がると、剣と剣がぶつかり合う音はさらに高まりを見せた。

その奥に、リオンの姿が見える。

本気で戦ってる……!

トライブは、リオンとオルティスが本気で戦っている現場へと急いだ。


だが、二人まで残り100メートルほどとなったとき、アーディスの力強い叫びが地下通路を包み込んだ。

スパークリングフラッシュ……!
必殺技……!

トライブですら打ち崩すのが難しい、光り輝くライトニングセイバー。

その力を最も知るはずの剣士に、いま解き放たれた。


だが、リオンはそれでも落ち着いていた。

運命の刃……、この身蝕むその力を受け止め、我が魂の力に変えろ!

ライトニングセイバーの光に、リオンはヘヴンジャッジで真っすぐぶつかっていった。

光に乗せて解き放たれた激しい力で、ライトニングセイバーがヘヴンジャッジに食い込もうとするが、リオンの腕の力が、すんでのところでライトニングセイバーの勢いを止める。


やがて、ヘヴンジャッジの刃がうっすら輝きだした。

力を……、吸収できるまでになったのか……!
俺は……、この剣で勝たなきゃいけない運命なんだ……!

リオンはその足を一歩下げたものの、徐々にその輝きがしぼんでいくライトニングセイバーをじっと見つめている。

ライトニングセイバーの光がほとんど消えたその時、リオンはヘヴンジャッジをライトニングセイバーから離し、ヘヴンジャッジの剣先を天井へと向けた。

リオン、隙を見せてる……。

勝負が決まろうとしていた場面で、リオンの取った一手にトライブは息を飲み込んだ。

ライトニングセイバーを止めたにもかかわらず、これでは相手に決定的な一撃を与えられてしまう。



だが、その瞬間にヘヴンジャッジの剣先が青白く輝き、リオンはその剣を一気に振り下ろした。

受け止めよ!青き刃の審判……!



ヘヴン・オア・ヘル!!!

なっ……!

リオンの腕が、動きを止めたアーディスの剣に向けて激しく振り下ろされた。

ヘヴンジャッジの青い光が、稲妻のようにライトニングセイバーに突き刺さる。



しかし、次の瞬間アーディスはその手でぐっとライトニングセイバーを握りしめ、自ら地面に投げ捨てたのだった。

アーディス……、どうしたのよ!

勝負がついたバトルに、トライブはその足を再び近づけようとした。

だが、無残にも床に転がっていくライトニングセイバーをその目で追うことしかできなかった。



その数秒後、トライブの目はライトニングセイバーを見失った。

消えた……。
ソウルウェポンどうしで戦ったから……、敗者の剣は消えた……。

トライブは、何のためらいもなく飛び出したソフィアの言葉に、首を下に向けた。



こうなることだけは、避けて欲しかった。

トライブは、声にならない言葉で自分にそう言い聞かせ、右手のアルフェイオスを強く握りしめた。



だが、これを見た当の二人は、勝利の味も敗北の味も感じることなく、お互いを睨み付けた。

どうしてくれるんだ、アーディス。

最後決着が付きそうになったら、自分の剣を放せって言ってたじゃん……。

リオンが、あそこまで本気で「ヘヴン・オア・ヘル」を使ってくるとは思わなかった。

慌てて俺も投げ捨てたけど、間に合わなかったみたいだな。

まぁ、いいよ……。

俺も、ヘヴンジャッジに運命を感じてるわけだし。



それに、俺の剣は「ゲームマスター」のところに行ったから、いつだって取り返せる。

アーディスの本気を見たら、俺だって「ソードレジェンド」の勝者にならなきゃって思うよ。

まぁ、そうだよな……。
そう言って笑い合う「青い旗の騎士団」の二人に、ソフィアの口元が緩んだ。

やっぱり、それ以上のバトルにはならなかった……。

決着付いたし……。

とりあえず、リオンはもうあの剣を使いこなせている。


でも、これでいいのかしら……。

トライブ……。
剣を持たない左手を握りしめるトライブを、ソフィアが不思議そうな目で見つめていた。
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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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