11 トライブ 前代未聞の失態
文字数 2,516文字
液体のようなものを掴んだトライブは、その手を液体から抜き、上から差し込むわずかな光で何を掴んだかを確かめた。
触った感じ、それは水だった。
穴に落ちたときに強い衝撃を感じなかったのは、下に水が流れていたからだった。
「オメガピース」自治区の近くで湧き出す地下水は、幅数センチにも満たないような細い流れになっているものばかりだ。
いまトライブたちがいる場所は、地下水の流れとはほど遠い、まるで小川が地下に潜ったような流れだった。やや力を入れていないと、流れに足を取られてしまうようだ。
そう言って、リオンも川底に立って、水が流れていく方向に目をやった。
その先にしばらく光は見えなかったが、ほぼソフィアが流されたと言って言いすぎではなかった。
トライブは、川の流れに耐えながら、足を一歩前に出そうとした。
だが、歩き出そうとしたトライブは、すぐに違和感を覚え、再び穴の真下に向けてUターンした。
普段、強敵に対しても冷静を貫くトライブは、この時ばかりは非常に早口になってリオンに告げた。
だが、トライブの言葉にリオンはすぐに首を横に振った。
そんなことだろうと思ったよ。
もしここで、ソウルウェポンを持った剣士とか出てきたら、たぶん大変なことになるな。
剣を持たないトライブに、相手が襲いかかってきて、倒れた瞬間にこの世界からトライブのソウルウェポンがなくなるとか……。
トライブは、そこまで言って小さく息をついた。
女が剣で戦ってはいけないという掟を破り、剣を持った日から10年。
トライブは、自分の操る剣をほぼ肌身離さず携えてきた。
それを、わずかな油断から手の届きそうにない場所に置き忘れることは、「クィーン・オブ・ソード」の名に泥を塗るような行為に他ならなかった。
どっちも大事よ。
でも、私の剣のほうが大事。
私とリオンとソフィアで、いまソウルウェポンがこの世界に残っているのは私だけだから、決して落としたで済む話じゃないから。
ソフィアだって、水が流れていてこの深さだったら、たぶんどこかで気付いて私たちを探そうとするわ。
トライブは、はるか頭上に見える穴を見つめながら、右手をグッと握りしめる。
その言葉と姿は、女王のプライドと、ソフィアを信じようとする強い気持ちの両方が入り交じっているようだった。
そこまで言って、トライブはついに黙った。
落ちてきた穴に足の踏み場を削ろうとしたり、川が流れてくる上流に出口がないか探したりした。
たしかに……。
剣を使って超常現象を起こすときは、たぶんその剣を手に持っていないと意味がないんだったよな……。
その、トライブが飛び上がれるような技も、いま言って剣が勝手に落ちてくるようなものじゃないだろうし。
リオンがそこまで言い終わった瞬間、これまで差し込んでいた光がほんの少し小さくなった。
その光のわずかな変化に、トライブはすぐに上を向く。
上にいる人物がそう口にすると、すぐにアルフェイオスがその手から解き放たれ、勢いよく穴に投げ入れた。
やや真下から外れた方向に投げ入れられたが、アルフェイオスが一度壁に当たって光の差し込んでいた場所に音を立てて落ちていった。
トライブは、半ば安堵の表情を浮かべながら、流れていく水の中からアルフェイオスを拾い上げ、穴に向かって高く伸ばした。
だが、一連のやりとりを見ていたリオンが、少し考えた後こう言ったのだった。