54 力の証を失って

エピソード文字数 2,571文字

私は、たった一本の剣で強敵を倒してきた。

たった一本の剣で、未来だって切り開いてきた。

アッシュの姿が見えなくなると、トライブは体を起こしたものの、そこで首を垂れた。

その手に、もうアルフェイオスはない。


その代わりに思い浮かぶのは、いつかトライブ自身が言ったはずの、言葉たち――

私は、剣を抜いたとき、いつも心に誓うのよ。

目の前の相手に負けたくない、と。


負けるために剣を持ったわけじゃないんだから。

私は、ボロボロの状態から何度も強敵を倒してきた。

最後まで自分の力を信じたからこそ、私はまた少しだけ強くなったのよ。

私は、たった一度の敗北で折れるような女じゃない。
そんな簡単に諦めるのなら、その身を削ってでも戦おうとしている剣に失礼よ!

私は、アルフェイオスを守り切る!

私の全てを懸けて!

最後の言葉が頭の中で空しく消えていったとき、トライブはついにその目に涙を浮かべた。

思い浮かんだ言葉は、涙に呑まれ、消えてしまいそうだった。

私は……、アルフェイオスを守れなかった……。

その時、トライブは右肩に自分のものではない、誰かの手のぬくもりを感じた。


涙の向こうに、ソフィアの姿がぼやけて見えた。

トライブ、何うなされてるの。


ほら、貫かれた右肩、まだ痛いでしょ。

トライブは、ソフィアが握りしめていた薬草を右肩にそっと当て、それから傷口をその目で見た。


全く勝負にならないバトルで力尽きた、はっきりとした証拠だ。

ありがとう。


なんか、こういう時に限って、もう言っても何の力にもならない言葉が出てくるの。

諦めたら何もかもおしまいなのよ、とか……。


不思議なものね。

全然そうは思わない。


だって、トライブいつも言ってるじゃない。

それは、アルフェイオスという、私の全てを出せる剣があったから、よ。

その剣に、想いの全てを託すことができたからこその台詞。



でも、今の私には……、もう剣がない……。

女剣士から剣が取り上げられた途端、それはただの女にしかならなかった。

こうして、武器を失った二人の女剣士が、目と目を合わせている。



ソフィアは、リオンのいる場所を探そうと、軽く目を左右に動かしたが、バトルのうちに方角を見失ってしまったようで、すぐに戻した。

オルティスの刀、リオンに譲らないほうがよかったのかも知れない。

それならまだ、トライブが武器を失うことはなかったはずだし。

そこまで気を遣う必要なんかないわ。


もし持ったとしても、私にはアルフェイオスのような力は出せない。

オルティスの魂と、ずっと通い合った武器が、そう簡単に私の声を聞いてくれるとも思えないし……。

言われてみれば、そうだよね……。

他人の武器を持っても、すぐには慣れないんだから……。

そういうこと。


だから、私はこのゲームで事あるごとにそう言ってきた。

負けたら、全く使ったことのない剣で戦わなければならないんだから……。

トライブは、首を左右に振り、目にたまっていた涙をそこで落とした。

ソフィアにも飛び散ったように思えたが、ソフィアはその涙をから決してよけようとはしなかった。

トライブ、そのルールを本当に嫌っているようね。

嫌っているというか、やめて欲しかった。


私は、慣れない剣を持った相手となんか戦いたくないし、だからこそ私が決定的な勝負から逃げ続けてきたのよ。

リオンとアーディスの勝負を見て、ますますその気持ちが強くなった。


でも、そのシステムに背を向けたからこそ……、いや、私が背を向けると最初から分かっていたからこそ、最後にアッシュと1対4の勝負をしなければならなかったのは、宿命だったのよ……。

トライブは、深いため息をついた。

つい10分前に、自らの全てを出し切り、そして散った女剣士の面影は、その表情のどこを探してもなかった。


今にも、また泣き出しそうだった。

時折空を見上げては、その空に向かってさえ、ため息をつきたくなりそうだった。



しばらくして、ソフィアがそっとトライブに尋ねた。

トライブ、一つ教えて。


もう一度アッシュと戦う意思、あるよね……。


いつも私に、そう言ってきたんだから。

その問いに、トライブはあっさりと首を横に振った。
どうして……。

私はもう、剣を失ったのよ。


自分の実力を一番出し切れる剣を失った以上、私にはもう剣士の資格なんてない……。

トライブの力ない言葉に、ソフィアは思わず両肩を掴んだ。

それでも、トライブの気持ちがこみ上げることはなかった。

なに弱気になってるのよ……。


いつものトライブは、どこ行ったのよ……。

ごめん、ソフィア。


今までずっと強がっていた。

ずっと強がってこれたんだけど……、剣を持たなくなったら、その強がりだって意味を失ってしまう……。

そんなの、強がりなんかじゃない。

ソフィアは、言葉短めに止め、トライブをやや細い目で見た。

額と額がぶつかりそうな間隔しかないところで、ソフィアはそれでも言葉を続けた。

今まで、トライブはいつも……、前向きな言葉を言ってくれた。

それが、トライブの強がりじゃないって、私は信じている。



きっとそれは、トライブの本心よ。

剣を持ったとき、常に自分に語り掛けている、熱いハート。

強い剣士としてもプライド。

そして、私を含めて、多くの人々の心を動かした「クィーン・オブ・ソード」の強さだと思う!

強さ……。

トライブは、右手をそっと握りしめた。

そこにアルフェイオスがあるかのように。


だが、その手で力の証を感じることはなかった。

そして彼女は、再び頭を垂れようとした。



その時、二人の視界に眩い光が飛び込んできた。

赤、オレンジ、黄色……。


次々と光が集まってくるわ……!

いろいろな光が、上空で一つに集まっている……。


きっと、虹の色……。

青も紫も見えているから、間違いなく虹の色しかないね……。
その時、「ゲームマスター」の低い声が、シルエットすら見えないこの場所にもはっきりと響き渡った。

いま、俺のもとに全ての五聖剣が揃った……。

これより俺は、最強の剣士として、その力の証を操らん。


七色の剣、レインボーブレード。

いま、俺の復讐を完成させる力となれ……。

「ゲームマスター」の低い声とともに、全ての光が森の向こう側で一つに集まり、眩く輝いた。

激しい地響きとともに、これまで伝説でしか語られてこなかった「最強の剣」が、その使い手によって引き抜かれたのだった。

このゲームが、本当の意味で終わりを迎えてしまう……。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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