18 刀を使いこなす者

文字数 2,589文字

トライブの手に、これまで数多くの強敵を打ち倒したアルフェイオス。

対するオルティスの母親の手に、本来オルティスが持ち、使いこなしている刀。


トライブの目が、鋭くなる。

そして――右足が動き出した。

はっ!
かかってらっしゃい!

正面に高くアルフェイオスを上げて迫るトライブに、オルティスの母親は足を一歩前に出しただけで、その刀を縦に立てた。


刃の向きが90度違う。これは、オルティスの母親もその場所から攻撃を仕掛ける。

何千回ものバトルを積み重ねてきたトライブには容易に想像できることだった。


だが、トライブがアルフェイオスを振り下ろしかけたとき、オルティスの母親の腕がかすかに動き出す。

刀は、一撃で相手を仕留めるべきもの!
……急に向きを変えた!

そのままアルフェイオスの行く手を封じ、上方に持ち上げていくとトライブが予想していたオルティスの母親が、軽く刀を引いた。


標的を失ったアルフェイオスを、トライブは肩の高さで止めて、相手が引いた刀を横から叩きつけようと腕に力を入れた。

その瞬間、オルティスの母親は刀を高く上げ、一瞬動きを止めたトライブの体に激しく斬りつけようと肩に力を入れた。

一筋縄じゃいかないようね……!

すぐにトライブは、オルティスの母親の持った刀が振り下ろす曲線に、アルフェイオスを移動した。

だが、何とか食い止めたところは、トライブの肩にギリギリ触れるか触れないかのところで、形勢はオルティスの母親のほうが圧倒的に有利な状況になった。

この刀を、食い止められるかしら……!
じりじり……、押されていく……!

トライブの手に、オルティスの母親が持った刀の力があふれ出していく。

懸命にアルフェイオスを握りしめるが、それを押し返すだけの力は、この体勢では厳しそうだ。

これが……、オルティスの刀の力……。


知っていても、かなりの力になっているわ……。

オルティスと最初に戦ったとき、刀の持つあまりのパワーと、オルティスの体から繰り出されるスピードに、トライブはなすすべもなく力尽きた。


いま目の前にいる、オルティスの母親は、スピードこそ控えめだが、刀のパワーだけで素早く相手を仕留めようとしている。

勝負を決めたがっているのだった。

これで……、終わりね!

オルティスの母親の持った刀が、ついにアルフェイオスを一気にトライブの手前に押しやり、そこから一気に振り下ろされる。


しかし、トライブの手が立ち直るのが、少しだけ早かった。

そうはさせない……!

すんでのところで刀を止めたトライブは、剣を持つ手に一気にパワーを集中させた。

歯を食いしばり、少しずつ、また少しずつ、オルティスの母親の側に刀を押しやっていく。


そして、刀の力を感じなくなりかけた時、「剣の女王」の叫び声がその場を包み込んだ。

はあああああっ!
なっ……!

トライブの本気の力が刀を芯から捕え、なぎ倒すかのように刀を地面に落としていった。

刀のパワーを携えたオルティスの母親は、全く抵抗できずその場に立ち竦み、やがて下を向いてトライブに歩み寄った。

強いわ……。


このゲームに、こんな強い剣士がいたなんて思わなかった。

あなたも、やっぱりその刀を持ったら、ものすごい力になっていた。

使いこなせてはいたと思う。


でも、あなたにとってその刀はソウルウェポンでも、そして全てを懸ける武器じゃないように私には見える。

もし刀がソウルウェポンだとしたら、あれだけのパワーを持った刀なんだから、そのパワーを信じて最初から攻めてきてたと思うのよ。

言われてみれば、単純なことね……。


そして、あなたの持つソウルウェポンは、本物だった……。

本物も何も、私はこの剣と一緒に戦い続ける。

どんなに強敵であっても、どんなに劣勢に追い込まれても、私はアルフェイオスを自分の魂だと思って戦い続けるの。

さすがね……。
オルティスの母親がそこまで言うと、トライブはほんの少しだけ間を置いて、オルティスの母親にそっと語りかけた。

最後に、これだけは聞くわ。


ソウルウェポンを焼き払ったのは、あなた自身の意思?それとも、誰かの指示?

私の意思ね。


そうするしか、ソウルウェポンを消し去ることができないんだもの。

なるほどね……。


でも、そんなこと「ソードレジェンド」でやってはいけない。

むしろ、あなた自身が「ゲームマスター」からソウルウェポンを教えてもらって、一人の剣士として戦うべきだったのかも知れない。


とりあえず、刀をソフィアに返しなさい。

トライブがそう言うと、オルティスの母親は地に落ちたオルティスの刀をソフィアに渡そうと手を伸ばす。

ソフィアの手にそれが渡ると、ひたすら下を向き、まるでこれまでしてきたことを恥じるかのような表情で無言になってしまった。


奥の方で、オルティスという名の子供がじっと見つめていた。

その中で、トライブたちは家を出た。



再び道路に出て、リバーサイドタウンの中心部に向かって歩き出すと、ソフィアがトライブの横に歩み寄る。

トライブ、いつになく「クィーン・オブ・ソード」ぽいキャラ演じてたじゃない。

あれだけの言葉をなかなか言えるような女は、トライブぐらいしかいないような気がする。

ソフィア、ありがとう。

私は、ダメなときは必ずダメって言っちゃうタイプだし……。

すると、そこにリオンが割って入る。

一つのことが解決したような表情を浮かべるソフィアとは対照的に、リオンは浮かない顔をしていた。

あの親、本当に自分の意思でソウルウェポンを焼いているのかなって思うんだ。

えっ……?
ソフィアの目が、リオンをじっと見つめた。

というか、もし「ソードレジェンド」が嫌なら、最初から「ゲームマスター」がこの世界にそんな設定を置いていないような気がするんだ。

それに、連れの武器を持って戦うんだろ。


だから、ああ言っておいて、最初からゲームのキャラだって可能性が高いんだ。


みんなどう思う?

それ、言えるかも知れないわね。


もしかしたら、ソウルウェポンを焼き払うときに炎の剣を持っていて、それが隠しソウルウェポンになったりしそうな気がする……。

いずれにしても、キャラだということは確定ね。


結局、手がかりは見つからなくて、オルティスの母親と言った人も、私の戦ったオルティスとは無関係……。

いや、子供のオルティスが母親の刀を見て強いと感じた、と考えれば夢があるだろ。
リオンのツッコミで笑う剣士たちは、リバーサイドタウンの中心に近づきつつあった。
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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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