58 女王の剣

文字数 2,523文字

今更、何をしに来た。オルティス。


実務部隊として動いたお前とて、もはや用はない。

俺の考えたシナリオを、俺自身の手で終わらせるまでだからな。

アッシュの低い声が、その場に漏れる。

彼はアーディスたちに剣先を向けながら、オルティスに顔だけを向け、じっと見つめていた。

それともなんだ。

そのアルフェイオスで、お前がレインボーブレードを止めようというわけか。

本来なら、いま剣を持っている私が、お前との勝負をしなければならない。


だが、お前の考えたゲームのシステムは、おそらくこの戦いを想定していないはずだ。

何を言う。


ここまで、全てルール通りに動いてきた。

俺がレインボーブレードを手にするところまで、全て計算ができていたからな。

アッシュは、そこで軽く笑った。

すると、オルティスは手にしていたアルフェイオスを高く上げ、その剣先を地面に向けた。


そして、一気に振り下ろす。

……っ!

瞬間、トライブの目がアルフェイオスの動きを追った。


見慣れたはずの剣が、いま地面に突き刺さる。

トライブは、息を飲み込むしかなかった。

オルティス。


いま、何をした。



剣を地面に突き刺すということは、負けということか。

なら、逆に問う。

アルフェイオスが私の手から離れて、負けと言えるか。

地面に突き刺したアルフェイオスから、オルティスは手を離す。

地面に垂直に突き刺さったその剣が、空からの光を反射する。

もう、お前に戦う意思はないようだな。

その意味で、お前の負けだ。

いや、この剣はまだ負けてなんかない。

今すぐにでも戦える。

オルティスは、落ち着いた表情でアッシュに言葉を返す。


トライブの目も、その言葉が進むにつれて徐々に細くなる。

システム上、負けたらコピーの剣を渡される。


だが、たとえコピーであったとしても、その剣の魂は受け継がれる。

その剣が完全に失われるまでな。


お前は、そのことの意味を理解していない。

だから、なんだ。


コピーの剣は、持つ者にとって敗北の証だ。

それ以上のことはない。

そう言うか。


なら、これでも事の意味を理解できないか。



トライブ、来い。

そういうことね……。

オルティスが声でトライブを呼び寄せると、トライブはゆっくりとアルフェイオスの前に進んだ。

オルティスのうなずきと同時に、地面に突き刺さったアルフェイオスの柄を掴む。



そして、力いっぱい持ち上げた。



はあああっ!

地面が割れるような衝撃とともに、アルフェイオスが再び地面から引き抜かれた。

トライブは、剣の先を真っすぐアッシュに向ける。


アルフェイオスを力強く構える、一人の女剣士。

この世界で、再びその姿が蘇った。

トライブが、私に教えてくれた。


慣れ親しんだ剣でなければ、剣士は本来の力を出せないと。

出すのは容易ではないのだと。


私は、バルムンクを持ち、戦い、それをはっきりと思い知った。

私の持つべき刀以外に、本来の力を発揮できるような武器はないのだと。

オルティス……。

そのことの意味を、最も理解しないように思えた、邪悪なライバル。

その彼が、最後のアルフェイオスを、持つべき剣士に託した。


オルティスの刀を砕いてしまったことが悔やまれるが、その悔しさすらも、「剣の女王」は、最後の剣に託したのだった。

だから、アルフェイオスをトライブに譲ったわけか。

本来、そのシステムが望んでいたのは、これではないのか。


本当に持つべき剣士に、その剣を託すということ。

たとえそれが、コピーとして渡される剣であってもな。

その言葉は受け止めよう。


だが、お前がいくらトライブにアルフェイオスを渡したところで、アルフェイオスでさえもレインボーブレードの前に跪く。

そのことに、変わりはない。

その瞬間、アッシュの体がトライブと対峙した。

光り輝くレインボーブレードを真っすぐトライブに向け、右足を踏み出そうとしている。


その様子を、普段と同じように細い目で見つめるトライブ。

そして、本来持つべき剣士のもとに渡った、アルフェイオス。



最後のバトルが、いま始まろうとしていた。

はあっ!

一度その破壊力を思い知っているはずのトライブが、何も臆することなくアッシュに迫る。

剣先を正面に向け、力ずくで受け止めようとするレインボーブレード目がけて、彼女の左から強く振った。


激しい音が、二人の間を貫く。

それとともに、軽く受け止めようとしたレインボーブレードが、かすかに傾いた。

なかなかやるな。


だが……

アッシュは静かに笑うと、レインボーブレードを徐々に強く握った。

右に押していたはずのアルフェイオスが、じりじりと押し戻されていく。


トライブもすぐにアルフェイオスを離し、今度は左下から突き上げるが、アッシュがすぐにアルフェイオスの動きを止めにかかる。

両者の剣が激しくぶつかり、弾き合い、またすぐにほぼ同じ場所でぶつかり合う。



レインボーブレードに何とか食らいつく、アルフェイオスのパワー。

鋭い動きを見せる相手にも、全く怯まない「クィーン・オブ・ソード」。

そのどちらも、遠くからは互角に見える。


だが、膠着仕掛けたバトルは、ややスピードを上げたアッシュの一振りでまた傾き始めた。

くっ……!

ついに、トライブがレインボーブレードの動きについて行けなくなった。

二人の中間でぶつかっていたはずのアルフェイオスが、正面から襲い掛かったアッシュの一振りで、一気にトライブの手前まで押し戻されてしまう。


トライブは懸命に弾こうとするが、そこに再びレインボーブレードの「壁」が立ちふさがる。

正面に戻そうとしても、相手の力に抑え込まれてしまう。

あっという間に、アルフェイオスはトライブの右に傾けられた。


そして、レインボーブレードが輝きを増し、何とか正面に戻したアルフェイオスに襲い掛かった。

トライブ……!
強い力が……、アルフェイオスを通り抜けていく……!

トライブは、アルフェイオスを強く握りしめた。

だが、あの時と同じように、少しずつ剣を持っている感覚が失われる。

とてつもないパワーが、いま最後の剣をも破壊しようとしている。


それでも、「剣の女王」の心は、強く叫んだ。

耐えて、アルフェイオス……!

その時だった。


トライブの手から、わずかな力があふれ出た。

それは、彼女の心に静かに語りかける、かすかな声だった。

聞こえるか……!


この声が、聞こえるか……!

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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