58 女王の剣
文字数 2,523文字
アッシュの低い声が、その場に漏れる。
彼はアーディスたちに剣先を向けながら、オルティスに顔だけを向け、じっと見つめていた。
アッシュは、そこで軽く笑った。
すると、オルティスは手にしていたアルフェイオスを高く上げ、その剣先を地面に向けた。
そして、一気に振り下ろす。
瞬間、トライブの目がアルフェイオスの動きを追った。
見慣れたはずの剣が、いま地面に突き刺さる。
トライブは、息を飲み込むしかなかった。
地面に突き刺したアルフェイオスから、オルティスは手を離す。
地面に垂直に突き刺さったその剣が、空からの光を反射する。
オルティスは、落ち着いた表情でアッシュに言葉を返す。
トライブの目も、その言葉が進むにつれて徐々に細くなる。
オルティスが声でトライブを呼び寄せると、トライブはゆっくりとアルフェイオスの前に進んだ。
オルティスのうなずきと同時に、地面に突き刺さったアルフェイオスの柄を掴む。
そして、力いっぱい持ち上げた。
地面が割れるような衝撃とともに、アルフェイオスが再び地面から引き抜かれた。
トライブは、剣の先を真っすぐアッシュに向ける。
アルフェイオスを力強く構える、一人の女剣士。
この世界で、再びその姿が蘇った。
トライブが、私に教えてくれた。
慣れ親しんだ剣でなければ、剣士は本来の力を出せないと。
出すのは容易ではないのだと。
私は、バルムンクを持ち、戦い、それをはっきりと思い知った。
私の持つべき刀以外に、本来の力を発揮できるような武器はないのだと。
そのことの意味を、最も理解しないように思えた、邪悪なライバル。
その彼が、最後のアルフェイオスを、持つべき剣士に託した。
オルティスの刀を砕いてしまったことが悔やまれるが、その悔しさすらも、「剣の女王」は、最後の剣に託したのだった。
その瞬間、アッシュの体がトライブと対峙した。
光り輝くレインボーブレードを真っすぐトライブに向け、右足を踏み出そうとしている。
その様子を、普段と同じように細い目で見つめるトライブ。
そして、本来持つべき剣士のもとに渡った、アルフェイオス。
最後のバトルが、いま始まろうとしていた。
一度その破壊力を思い知っているはずのトライブが、何も臆することなくアッシュに迫る。
剣先を正面に向け、力ずくで受け止めようとするレインボーブレード目がけて、彼女の左から強く振った。
激しい音が、二人の間を貫く。
それとともに、軽く受け止めようとしたレインボーブレードが、かすかに傾いた。
アッシュは静かに笑うと、レインボーブレードを徐々に強く握った。
右に押していたはずのアルフェイオスが、じりじりと押し戻されていく。
トライブもすぐにアルフェイオスを離し、今度は左下から突き上げるが、アッシュがすぐにアルフェイオスの動きを止めにかかる。
両者の剣が激しくぶつかり、弾き合い、またすぐにほぼ同じ場所でぶつかり合う。
レインボーブレードに何とか食らいつく、アルフェイオスのパワー。
鋭い動きを見せる相手にも、全く怯まない「クィーン・オブ・ソード」。
そのどちらも、遠くからは互角に見える。
だが、膠着仕掛けたバトルは、ややスピードを上げたアッシュの一振りでまた傾き始めた。
ついに、トライブがレインボーブレードの動きについて行けなくなった。
二人の中間でぶつかっていたはずのアルフェイオスが、正面から襲い掛かったアッシュの一振りで、一気にトライブの手前まで押し戻されてしまう。
トライブは懸命に弾こうとするが、そこに再びレインボーブレードの「壁」が立ちふさがる。
正面に戻そうとしても、相手の力に抑え込まれてしまう。
あっという間に、アルフェイオスはトライブの右に傾けられた。
そして、レインボーブレードが輝きを増し、何とか正面に戻したアルフェイオスに襲い掛かった。
トライブは、アルフェイオスを強く握りしめた。
だが、あの時と同じように、少しずつ剣を持っている感覚が失われる。
とてつもないパワーが、いま最後の剣をも破壊しようとしている。
それでも、「剣の女王」の心は、強く叫んだ。
その時だった。
トライブの手から、わずかな力があふれ出た。
それは、彼女の心に静かに語りかける、かすかな声だった。
聞こえるか……!
この声が、聞こえるか……!