16 リバーサイドタウンにて

文字数 2,534文字

おっ、街が見えてきた!

遠くから見ると、なんか活気ありそうだな。

なだらかな坂を下る三人の目に、建物が立ち並ぶ光景が飛び込んできた。


一度は地面の下に潜り込んでいたはずの川も、ここにきて姿を現すようになり、土を伝って流れてきた水がやや広い、スカイブルーの道となって三人の横を駆けていく。

ゲームの世界に街があるって、アリスがよく言ってたような気がするけど、本当にあるのね……。


遠くから見ると、人が生活しているって感じだし。

そうね……。


今まで、アーディスや「ゲームマスター」を含めて、この世界に6人しかいなかったから、人がいっぱいいるような世界じゃないと思った。

ちゃんと、私たちが休める場所も用意してあるのね。

そうだよな……。


「ソードレジェンド」なのに、さっきから一人も剣士に出会わないのは本当に奇妙な気がするけど……、たぶんあの街の中に剣士がいるような気がする。

ソウルウェポンを持った剣士、きっといると思うわ。


逆に、街の中で私たちを待っているのよ。

そう言うと、ソフィアがオルティスの刀を街にまっすぐ向け、軽く目を細める。

その中に、ストリームエッジが眠っているかも知れないと決めつけたかのように、ソフィアの目はじっと街を見続けていた。

そうだと、展開的にはいいんだけど……。


ソウルウェポンを持ってるかどうかは、会わないと分からないわ。

トライブは、そう言いながら地面を見た。

これまで草原だった大地に、ブロックでできた道が広がっている。


どうやら、街の外れまで来たようだ。

街の中で暮らす人の声も、その感情までよく聞こえるようになる。

着いた……。


とりあえず、まだ夜じゃないし、私たちはここで何かしら冒険の手がかりをみつけないと。

そうね……。


でも、どこから当たるか……。

「オメガピース」の任務と違って、依頼者もいなければ、総統からの指示もない。

普段ソードマスターのトライブも、そこまで手当たり次第に手がかりを見つける経験がなかった。


文字通り、闇雲に探すしかなさそうだった。



そして、川沿いに進んできた道が、町外れの一軒家の前をかすめる。

そこを通り過ぎたとき、緑色の髪をした一人の少年が、トライブたちに人差し指を向け、面白おかしく笑いだした。

あー、剣士だー!


なんか、とんでもないサイズの武器持ってる人もいるー!

そう言うと、少年は逃げるようにして通りに面した家に入る。


だが、家に入ってもあざ笑うような声はやまず、トライブたちにはっきりと聞こえるような声で、家の中にいる人物に向けて叫んだ。

この世界で、最も危険な人物、剣士がやってきたよー!

お母さん、ホント怖いよー!

それに対する母親の声は、小さくてトライブたちには聞き取れない。

しばらく少年以外の声が聞こえないのが分かると、トライブはソフィアとリオンの目を同時に見て、小さくため息をついた。

あの子、たぶんその刀を見て怯えたような気がする。

だろうな、ソフィア。


俺は鞘にしまってたし、トライブだって剣を下に傾けてたものな。

堂々と正面に刃を向けて歩いてたし。

ごめん。


意気込みすぎちゃったかも……。



でも、あの男の子、どう見ても戦うような感じじゃなかったし、親が剣士だったら剣士が危険だとか絶対言わないと思う。

だから、私たちの冒険には無関係だったの。

まぁ、無関係ってことは間違いないみたいだな……。

リオンが薄笑いを浮かべ、ソフィアが半ばあきらめたように刀を下に向けた。


その時だった。

トライブは空気の流れの異変に気付き、勢いよく上空を睨みつけた。

そして、ソフィアとリオンの腕を掴み、二人の腕を同時に引っ張った。

これは罠よ……っ!
えっ……?

その少年の家の屋根を覆うようについていたカゴが外れ、そのまま三人の上空へと落ちていった。


影に気付いてから二人を引っ張ったトライブを含め、地面を叩きつける音と同時に、カゴ閉じ込められてしまった。

あと一歩のところ、強いて言えばソフィアが躊躇したわずか1秒の差が命取りだった。

閉じ込められた……!

カゴは、わずかながら明かりが差し込んでいるとはいえ、地面に落ちた罠のような状態では、持ち上げることができなかった。


すると、トライブはアルフェイオスを正面に向けて、カゴにまっすぐ刀を叩きつけた。

吸い込まれる前に、叩き切るまでよ!

そうね。

私たちもやらないと、持ち上げられてしまう……!

あぁ、そうだな。

三人が、それぞれの武器をカゴに叩きつけた。


だが、三人はほぼ同時に体がカゴに吸い込まれていくような感触を覚えた。

な……、何よ……。

このガムみたいな感触……!

剣が、完全にカゴに吸い込まれてるんだけど……!


いったい、どういうことだよ!

カゴを切り裂くはずの武器が、その手前で予想すらしなかったトラップにもがいていた。

すると、三人の頭上から、先程の少年の母親らしき人物の声が大きく響いた。

この子に恐怖を与えるような「ソードレジェンド」のゲーム、とっとと終わらさなきゃいけないわね。


今から、屋根裏であなたたちと戦うまで!

ま……、街に入ってまで戦うことになるんかよ……。

リオン。


たぶん、「ゲームマスター」のシナリオだと思う。

手がかりがあると思わせて街に入ったら、これだもの。

トライブは、アルフェイオスをカゴから離し、屋根裏での勝負に挑む覚悟を決めた。

他の二人は、やや難色を示すような表情を浮かべながらも、持っている武器をカゴに叩きつけては離していく。


だが、母親の声が聞こえなくなると、そのカゴが突然持ち上がった。

あっ……!

助けて……!

持ち上げられちゃう……!

オイオイオイオイ……?

カゴが持ち上げられると同時に、その瞬間に武器をカゴにくっつけていたソフィアとリオンの体も持ち上げられてしまった。


咄嗟に、トライブはソフィアの足を左手で掴んだ。

私抜きで……、あの場所に行かせたくない……。


できれば、私が行ったほうがいい……!

ソフィアもリオンも、ソウルウェポンを持っていない。

そうなれば、たとえ少年がソフィアの持つ刀をあざ笑ったとしても、母親の狙いは間違いなくトライブのアルフェイオスのはずだ。


トライブが、その場所に取り残されるわけにはいかなかった。

待ってなさい。


私が、あなたの相手をするわ!

トライブは、ソフィアの足を必死に掴みながら、きっぱりとそう言った。
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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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