16 リバーサイドタウンにて
文字数 2,534文字
なだらかな坂を下る三人の目に、建物が立ち並ぶ光景が飛び込んできた。
一度は地面の下に潜り込んでいたはずの川も、ここにきて姿を現すようになり、土を伝って流れてきた水がやや広い、スカイブルーの道となって三人の横を駆けていく。
そう言うと、ソフィアがオルティスの刀を街にまっすぐ向け、軽く目を細める。
その中に、ストリームエッジが眠っているかも知れないと決めつけたかのように、ソフィアの目はじっと街を見続けていた。
トライブは、そう言いながら地面を見た。
これまで草原だった大地に、ブロックでできた道が広がっている。
どうやら、街の外れまで来たようだ。
街の中で暮らす人の声も、その感情までよく聞こえるようになる。
「オメガピース」の任務と違って、依頼者もいなければ、総統からの指示もない。
普段ソードマスターのトライブも、そこまで手当たり次第に手がかりを見つける経験がなかった。
文字通り、闇雲に探すしかなさそうだった。
そして、川沿いに進んできた道が、町外れの一軒家の前をかすめる。
そこを通り過ぎたとき、緑色の髪をした一人の少年が、トライブたちに人差し指を向け、面白おかしく笑いだした。
あー、剣士だー!
なんか、とんでもないサイズの武器持ってる人もいるー!
そう言うと、少年は逃げるようにして通りに面した家に入る。
だが、家に入ってもあざ笑うような声はやまず、トライブたちにはっきりと聞こえるような声で、家の中にいる人物に向けて叫んだ。
この世界で、最も危険な人物、剣士がやってきたよー!
お母さん、ホント怖いよー!
それに対する母親の声は、小さくてトライブたちには聞き取れない。
しばらく少年以外の声が聞こえないのが分かると、トライブはソフィアとリオンの目を同時に見て、小さくため息をついた。
リオンが薄笑いを浮かべ、ソフィアが半ばあきらめたように刀を下に向けた。
その時だった。
トライブは空気の流れの異変に気付き、勢いよく上空を睨みつけた。
そして、ソフィアとリオンの腕を掴み、二人の腕を同時に引っ張った。
その少年の家の屋根を覆うようについていたカゴが外れ、そのまま三人の上空へと落ちていった。
影に気付いてから二人を引っ張ったトライブを含め、地面を叩きつける音と同時に、カゴ閉じ込められてしまった。
あと一歩のところ、強いて言えばソフィアが躊躇したわずか1秒の差が命取りだった。
カゴは、わずかながら明かりが差し込んでいるとはいえ、地面に落ちた罠のような状態では、持ち上げることができなかった。
すると、トライブはアルフェイオスを正面に向けて、カゴにまっすぐ刀を叩きつけた。
三人が、それぞれの武器をカゴに叩きつけた。
だが、三人はほぼ同時に体がカゴに吸い込まれていくような感触を覚えた。
カゴを切り裂くはずの武器が、その手前で予想すらしなかったトラップにもがいていた。
すると、三人の頭上から、先程の少年の母親らしき人物の声が大きく響いた。
この子に恐怖を与えるような「ソードレジェンド」のゲーム、とっとと終わらさなきゃいけないわね。
今から、屋根裏であなたたちと戦うまで!
トライブは、アルフェイオスをカゴから離し、屋根裏での勝負に挑む覚悟を決めた。
他の二人は、やや難色を示すような表情を浮かべながらも、持っている武器をカゴに叩きつけては離していく。
だが、母親の声が聞こえなくなると、そのカゴが突然持ち上がった。
カゴが持ち上げられると同時に、その瞬間に武器をカゴにくっつけていたソフィアとリオンの体も持ち上げられてしまった。
咄嗟に、トライブはソフィアの足を左手で掴んだ。
ソフィアもリオンも、ソウルウェポンを持っていない。
そうなれば、たとえ少年がソフィアの持つ刀をあざ笑ったとしても、母親の狙いは間違いなくトライブのアルフェイオスのはずだ。
トライブが、その場所に取り残されるわけにはいかなかった。