41 「ゲームマスター」がつけた因縁
文字数 2,638文字
トライブがきっぱりと言いきったその説に、ソフィアもアーディスもしばらく黙った。
数秒経って、ソフィアの口からその沈黙が破られたような状況になったほどだ。
少しずつ、張り詰めた空気がこの場の中を動き出そうとしていた。
でも、それは変じゃない?
だって、「ゲームマスター」はいろいろな時代に影として出てきて、私たちをゲームの世界に引きずり込んだわけでしょ。
いろいろな時代で「ゲームマスター」が動いてないといけないわけでしょ。
それは、一つの疑問として残るわ。
でも、「ゲームマスター」がゲームの世界に転送できる能力を持てるのだから、異なる時代の剣士たちに声を掛けに行くこともそんな難しい話じゃないのかも知れない……。
それでも、もう一つだけはっきりしていることがあるのよ。
ソフィアとアーディスの目が見つめる中、トライブは静かにうなずいた。
そして、ややアーディスに体を向けながら、トライブは再び口を開いた。
「ゲームマスター」が、アーディスと同じ時代を生きたという可能性よ。
もちろん、アーディスは私たちより1世代上の人間だから、私たちと同じ時代と言っても何人もいそうだけど、その中で因縁をつけられた人は、そう多くないはずなのよ。
なるほどな……。
その前に、俺がどれくらいお前たちと離れているか教えて欲しい。
逆算できるわ。
私が、10年後の世界で任務を行ったとき、アーディスはたしか60歳だった。
つまり、私やソフィアがいる時代、アーディスは50歳。
その時点で、私とは25歳離れているということよ。
アーディスが38歳って言ってるんだから、私やソフィアは13歳になるわ。
なるほどな……。
ただ、それでは「ゲームマスター」の年齢がはっきりしないんじゃないのか。
でも、リオンはどう見るのよ。
私たちより、30年近く上の世代でしょ。
「ゲームマスター」だって30歳以上になってないといけないし、リオンの前にも青年の姿として現れたんだから……50歳くらいということになる。
リオンと同じ世代……。
ソフィア。
そう考えたくなるけど、そこが落とし穴なのよ。
リオンとは、実際の接触がなくても、その歴史で知ることができる。
あくまでも、「ゲームマスター」が一緒の時代にいないといけないのは、38歳のアーディスのほう。
なるほどな……。
じゃあ、俺がそこまでの間に因縁をつけられそうになった剣士が、みな対象になるのか。
ただ、俺が……悪いことしたという記憶もない。
因縁の種か……。
たしかに、あると言えばあるな……。
ソフィアの後押しに、アーディスの口が動き出す。
再び唸るような声を上げて、アーディスは思い出すかのように言った。
一人の剣士の夢を、潰してしまったこと。
それが俺にとって、一番因縁をつけられることだったのかも知れない。
ほぼそういうことになる。
傷はつけていないが、小さな村の剣術大会で勝ち上がった少年を、俺はものの3秒で潰した。
少年だから、たった3秒で片付くと言ってしまえばそこまでだろうけど……、その少年は勝った俺に鋭い目で睨み付けた。
ソフィアの突然の妨げに、体を後ろに傾けるしかなかったアーディスが、少しずつ体を元に戻していく。
やや小さな声で、アーディスは聞き返した。
ソフィアは、そう言い終わると息を飲み込んだ。
アーディスが何を言うか、その細い目でじっと待っているようだった。
その様子を、トライブは左右に目を傾けながら見つめるしかなかった。
言う。
その村の名は、カルフール。
オデッサの森の向こうにある、小さな村だ。
その時だった。
トライブが、かすかに目線を横に向けたその先に、黒いシルエットがはっきりと映った。
指を真っ直ぐ伸ばして、ソフィアたちに無言でそのことを伝えると、二人の目も一斉にそのシルエットに向けられた。
ゆっくりと3人に近づいてくるシルエットに、ソフィアが右足を思わず後ろに引いた。
その名前を最初に予感しただけに、ここまで話を進めてしまったことへの罪悪感が、彼女の右足にあった。
それと同時に、トライブはアルフェイオスをシルエットに向け、いつでも戦闘が始められる体勢になった。
やがて、シルエットはアーディスを指差しながら告げた。
ソフィアだけが分かっている正体を、トライブは簡単に断定することができなかった。
ただ、アルフェイオスを手にしたままの、二人の出方を待つしかなかった。