12 「ゲームマスター」の人物像

文字数 2,593文字

「ゲームマスター」じゃない……?


それってどういうことよ。

リオンの言葉に、思わず顔の向きを変えたトライブは、上から差し込む光を頼りに彼の表情を伺った。

リオンは、しばらく上を見ていたが、上にいる人物が見えなくなったのか、顔をトライブに向けた。

俺の聞き覚えのある声が、上から聞こえてきたんだ。

誰の声かははっきりと分からなかったんだけどさ……。

聞き覚えのある声……。

リオンが会ったことのある人物なの?

たぶんね。俺の間違いかも知れないけど……、「青い旗の騎士団」のアーディスだったかも知れないんだ。


ただ、下にいると反射して見えないし、俺が見ても上から光が差し込んでて、はっきりと顔を見ることができなかったんだ。

でも、言い方が「ゲームマスター」ぽくなかったような気がする。

たしかに可能性としてはあるかも知れないわ。

でも、展開的に「ゲームマスター」かも知れないと私は思うけど……。

アルフェイオスを上から投げ込まれたシチュエーションを、トライブはもう一度頭の中で組み立てていた。そして、そこに立っていた人物が「ゲームマスター」だった場合とそうでなかった場合を同時に考えながら、リオンの表情を伺った。

リオン。


もし、アルフェイオスを落としてくれたのが「ゲームマスター」だったとしたら、「ゲームマスター」がルールの説明もしてくれて、剣たちのバトルを公正に進めているように見えるのよ。

そうかなぁ……。


「ゲームマスター」がそこまでいい人には思えないな。


じゃあ、逆に「ゲームマスター」じゃなかったらどういう推理になるんだ?

えぇ。


もしリオンの言うとおり、アルフェイオスを落としたのがリオンの知り合いだったとしたら、「ゲームマスター」がものすごく残酷な人ってことになりそうよ。

ソウルウェポンが私の手から離れたのに、「ゲームマスター」が何もしないっていうことになる。

そうか……。

リオンは、トライブの推理に腕を組み、一度地面を見つめた後で再びトライブに顔を向けた。

「ゲームマスター」は、冷たい奴だと思うよ。


俺のライトニングセイバーがソウルウェポンじゃないって告げたときの、「ゲームマスター」の言葉が冷たいって思えてくるんだよな。

リオン、そこで何と言われたのよ。

俺がこの世界に呼ばれた理由を、いま教えるわけにはいかない。

そう言ったんだ。


もしトライブの言うとおり、「ゲームマスター」が親切な人だったとしたら……、俺に変なこと言わないと思うんだけどな。

なんて冷たい「ゲームマスター」よ……。


なんか、私が「ゲームマスター」に気を遣ったのが恥ずかしくなりそうね。

トライブは、一度首を横に振り、それまで考えていた「幻想」を捨てようとした。

ソフィアが流れていった水路の奥へと体を向けながら、リオンにそっと告げる。

リオン。


もしかしたら、「ゲームマスター」が私たちの敵なのかも知れない。

剣を持っていないから、私たちと戦うことはないと思うけど……、リオンの話を聞いている限り、彼から怪しい雰囲気しかしないわ。

だね。

だから、「ゲームマスター」には気を付けないといけないね。

私もそうするわ。


リオン。ソフィアが下で待ってるわよ。

そう言うと、トライブは暗い通路を水の流れていく方向に歩き出した。


靴の中に水が入らないように気を付けながら歩くものの、穴から離れていくにつれて壁すら見えなくなり、数十メートル歩いたところでトライブはその足に水をはっきりと感じた。

冷たい……っ!

大丈夫か、トライブ。


水でも入ったんか?

えぇ……。


やっぱり、この水路の中は暗くて……、どこが床なのか分からないのよ。

そう言うと、トライブは後ろを振り返り、リオンの表情を伺った。

リオンも、そう言いながら足に水を被っており時折足下を気にしているようだった。


すると、リオンはライトニングセイバーを前にかざして、それを力いっぱい握ろうとした。

だったら、俺が光になってあげようか。

スパークリングフラッシュで、俺が光を点せば明るくなるだろ。

言われてみれば……、リオンは光を点すことができたわね。


でも、その光って必殺技でしょ?

使い続けて、リオンの負担にならないの?

俺のスパークリングフラッシュは、光を点すだけなら力も魔力もそこまで必要としないさ。

そこから一気に剣を振り続けるから疲れてしまう。それだけなんだ。

なるほどね。

リオンは、トライブの前に立ってライトニングセイバーを白く輝かせた。

つい先程、トライブが太刀打ちできなかった強い力が、いまトライブたちの行く先を点す光となって、道を作っていた。

光に照らされて分かったけど、通路がさらに狭くなってるし、天井も低くなってるわ。

普通に考えれば、そうなんじゃない?


だって、穴が空いていたところは、もともと土の一部が崩れ落ちたんだし、この水路の流れが急じゃなくなったところに溜まってくると思うよ。


それに、川の流れが急じゃなくなったら、水路を削り取るような力もなくなるから、それだけでも通路が狭くなるってことさ。

リオンは、二人の頭すれすれのところにある天井を指差す。

その説明を聞きながら、トライブは少しだけ首をかしげた。

もしそうだとしたら……、ソフィアもこのあたりで流されなくなっているような気がするのよね……。


つまり、このあたりにいるということよ。

言われてみれば、そうだよな……。


見た感じソフィアが流れ着いたような様子はないような気がするけど、ここから下に行くには水路の幅が狭すぎる……。

その時だった。

トライブとリオンの肌に、天井から小さな砂粒のようなものが落ちてくるのが分かった。

天井に当たったわけでもないのに、砂粒が落ちてくるってどういうこと?

そうだな……。

上に誰かがいるのかも知れない……。


それこそ、ソフィアなんじゃないか?

もしそうだとしたら、ソフィアはここから呼べば……、分かるかも知れない。



ソフィア、どこいるの?

上よ。


地上に出ようと這い上がっているんだけど、少しだけ差し込む光のところでどうすることもできないのよ……。

ソフィア、いま登っていったところ探して、助けに行くわ!

そう言うと、トライブとリオンは足場を見つけ、岩と岩の間をよじ登り始めた。

ソフィアの言うとおり、たしかに小さな光が上から差し込んではいたが、その光からソフィアの姿を見つけることはできなかった。


だが、声だけはする。

その声を頼りに、二人はソフィアのところに一段ずつ近づいていった。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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