52 勝ち目のない戦い

エピソード文字数 2,779文字

よく頂点に立ったな、トライブ。

「ゲームマスター」の黒いシルエットが、トライブの前に立つ。

その手には、五聖剣の一つ、エクスリボルバーがしっかりと握られており、丸い柄がシルエットの隙間を通る光に照らされていた。


トライブは、「ゲームマスター」を見つめ、このゲームで頂点に立った剣、アルフェイオスをまっすぐかざす。

えぇ。


これから私たちをどうする気よ。

このゲームを終わらせるまでだ。


本当の最強が俺に決まり、全ての剣士たちが俺に跪く。

それが本当のエンディング。


だからお前は、ルール上は最強の剣を持っているが、まだ最強の剣士ではない。

面白いじゃない。


それが、ソフィアが言っていた1対4のバトルってわけね。

あぁ。



トライブ、この広場が戦うにはちょうどいい。

そして、お前にとって屈辱を受ける場所となるのにふさわしい場所だ。

屈辱とは何よ……。



私は、たとえ1対4だろうが、剣士としてこの勝負を落とすことはできない。

そもそも剣士でない「ゲームマスター」を相手にするんだから。

トライブが、睨みつけるように「ゲームマスター」を見つめた時、「ゲームマスター」のシルエットにかすかに映った唇が、くすぐるように動いた。

お前も分かっているようだな、俺の正体を。


せめて戦う前に、その本性を見せてやろう。

「ゲームマスター」がそう言うと、それまでその身を覆っていたシルエットが力を失うかのように消えていき、鋭い視線と青い髪がトライブの視界に飛び込んできた。



アッシュ・ミッドフィル。


「オメガピース」ではトライブと同じ「マスター」クラスに君臨する、最強の銃使い。

それが今、エクスリボルバーをかざし、立っている。



次の瞬間、エクスリボルバーが1回、2回……と白く輝いた。

そして4回輝いたとき、アッシュがエクスリボルバーを正面に戻し、右足を前に出した。

1対4のバトル。

お前は必ず、俺の前に跪く。

臨むところよ。

「クィーン・オブ・ソード」の戦闘本能が、最強の銃使いを前にして燃え上がる。

アルフェイオスをしっかり握りしめ、ついにその足を踏み出した。

トライブ……。

二人の「最強」が、お互いを目がけて走り出す。


アッシュがエクスリボルバーの剣先をやや下に傾けながら迫るのを見て、トライブはアルフェイオスの高さをほとんど変えず、上からエクスリボルバーの勢いを止める作戦に出た。

はあああっ!

だが、いよいよ二つの刃がぶつかろうという時、アッシュの口元が軽く笑った。

そして、少しだけ持ち上がりかけたアルフェイオス目がけて、素早く叩き上げた。

い……っ!

トライブは、アッシュのエクスリボルバーが振り上げられた瞬間、右手の手首に激しい衝撃を覚えた。

突き上がるような力がアルフェイオスを襲い、上から抑えつけようとしたトライブの動きを、いとも簡単に止めてしまった。



それから瞬く間に、エクスリボルバーが正面からスピンしながら迫ってくるのを、トライブは反射的に気付いた。

早い……!

エクスリボルバーの尖った剣先を、トライブは体から数十センチのところで何とか食い止め、彼女の右へと反らした。


だが、スピンが止まらないエクスリボルバーが、その遠心力を使ってすぐさま彼女の正面に戻り、逆にアルフェイオスを激しく叩きつける。

今度は、アルフェイオスのほうがあっさりと彼女の左に押し倒されてしまった。

レベルが……、違い過ぎる……。

ソフィアが、固唾を呑んでトライブを見守っている。


アッシュの動きを食い止めることすら許されないトライブから、少しずつ選択肢が消え始めていることを、その彼女と最も剣を交えたソフィアははっきりと分かっていた。

アッシュ……、エクスリボルバーの剣先を回転させている……。


尖った剣先をスピンさせて、相手の心臓を貫く、突き専門の剣……。

この動きができる、高度な技術を持った剣士は、ほぼいないはずなのに……、アッシュは手先が器用だから、高度な技術もものともしない……。

ソフィアがそう呟く声は、「剣の女王」トライブには全く届かない。

だが、エクスリボルバーがそのようにして強敵に立ち向かってきた道を、アッシュが再現しようとしていることだけは、トライブにも分かっていた。



力ずくでエクスリボルバーのスピンを抑え込むしかない。

たった一つの作戦を思いついた、トライブの目が鋭くなる。

はあああっ!

軽くジャンプして、エクスリボルバーから離れたトライブは、アルフェイオスをさらに強く握りしめ、これまで何度も強敵を打ち破ってきた剣に宿る力を、一気に高める。


「クィーン・オブ・ソード」が、本気のパワーを見せる前触れだ。


そして、トライブは正面からアッシュに立ち向かっていった。

はあああああっ!

トライブが、一気にパワーを上げた……。

それだけ、トライブのペースで戦いを続けたら、勝ち目がないってこと……。

ソフィアの目には、トライブが焦っているようにさえ見えた。

それでも、トライブがその状態から強敵の力を打ち砕く場面を何度も見てきた彼女は、信じるしかなかった。



だが、二人の想いはアッシュの薄笑いにかき消される。

動きは読めた……。

エクスリボルバーのほぼ中心目かけて振り下ろされたはずのアルフェイオスから、アッシュは逃げるようにエクスリボルバーをやや下ろし、突き出しながら再び上に持ち上げた。その勢いのまま、エクスリボルバーがアルフェイオスに襲い掛かる。


トライブも、力ずくでエクスリボルバーを止めようとするが、彼女の渾身のパワーでさえエクスリボルバーの勢いに飲み込まれ、あっさりと跳ね返されてしまった。

まだまだよっ!

徐々に呼吸が激しくなるのを感じたトライブは、それでももう一度アルフェイオスを握りしめ、今度は下からエクスリボルバーを押し上げようとした。


だが、そのわずかな時間ですら、アッシュには動きを読むには十分な時間だった。

上からエクスリボルバーを勢いよく振りかざす。

だはっ……!

エクスリボルバーの激しいパワーに、アルフェイオスをあっさりと下に傾けられ、すぐさま体ごと左に退けられる。

先程までの比ではないほどの激しい痛みが、トライブの右手首にあふれ出た。



「剣の女王」が本気でぶつかっても、4倍の力を持つエクスリボルバーにダメージひとつ与えられない。

あらゆる強敵にその力を見せつけてきた「クィーン・オブ・ソード」の姿が、少しずつかすんでいく。



その中で、エクスリボルバーの回転だけがさらに速くなっていく。

再び狙いを定めたアルフェイオスに、さらに強い衝撃を与えた。

……くっ!

トライブは、その体から一瞬力が抜けるのを感じた。

体勢を立て直す前に作ってしまった、彼女の決定的な隙。


そのわずかな間に、エクスリボルバーが再び正面から襲い掛かる。

……っ!

エクスリボルバーの鋭い剣先がトライブの右肩を突くのを、彼女ははっきりと見た。


引きちぎれるような痛みが、剣を持つ手先へと電撃のように貫いていった。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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