35　アルフェイオスと共に決めた覚悟

刀を右手に、バルムンクを左手に携えたオルティスが、迫るトライブに両方の刃を正面に突き出す。

やや上に傾けたトライブの攻撃を、挟み撃ちにしようとしているようだ。

だが、これまで数多くの強敵を打ち破った「剣の女王」は、すぐにオルティスの動きを見破った。

トライブはアルフェイオスを、正面からではなく、あえて右上から一気に振り下ろした。

バルムンクが激しい金切り音を立て、下に傾く。

だが、オルティスはその直後に、足を前に出し、体を180度回転させた。

腕をクロスさせることなく、アルフェイオスを挟み込むように刀を真上から振り下ろした。

トライブもすぐにアルフェイオスを上げるものの、刀の勢いに押され、オルティスの思うがまま、二つの刃に挟まれてしまう。

オルティスが、二つの刃で挟み込んだアルフェイオスを、じわじわと持ち上げに入った。だが、トライブは腕に力を入れ、それを許さない。

逆に、トライブはアルフェイオスを小刻みに上下させ、刃で出来た「結界」を振り切ろうとした。

次の瞬間、トライブはアルフェイオスに一気に力を入れ、下から支えていたバルムンクを傾け、できた隙間からアルフェイオスを振り切った。

オルティスが再びバルムンクに力を入れようとするが、その時にはアルフェイオスが弧を描くようにオルティスの刀へと襲いかかる。

トライブの一撃で二つの刃を離ればなれにされたオルティスは、軽く後ろにジャンプし、再び二つの刃をまっすぐトライブに向けた。だが、その刃の向きは、先程と違って揃っていない。

その中を、トライブは剣先を上に傾けながらオルティスへと迫った。

オルティスの刀に降りかかるアルフェイオスを、今度は刀だけでその動きを止め、軽く突き放した。

さらに、間髪入れることなく、行き場の失ったアルフェイオスにバルムンクの鋭い刃が襲いかかる。

立て続けに攻撃を跳ね返されたトライブの呼吸が、その耳にはっきりと聞こえるほど荒くなる。

トライブにとっては、ただでさえ「強敵」であるオルティス。

その力は、たとえ両手に武器を持っていたとしても変わらず、対するトライブにとっては破らなければならない力がほぼ倍になっているかのようだった。

それは、たとえ「クィーン・オブ・ソード」が本気を出したところで、容易に打ち破れるものではない。

それでも、トライブの集中力は緩むことを許さなかった。

その目が、オルティスの手をじっと見つめていた。

「剣の女王」の手には、その力の証、アルフェイオスが常にその輝きを放っていた。

たとえ、最強クラスの剣が二つ立ちはだかろうと、唯一その力を使いこなすことのできるアルフェイオスで挑むしかなかった。

トライブは、アルフェイオスを握りしめた。

ほぼ同時に、オルティスがバルムンクを上げながらトライブに迫り始めた。

力いっぱい振り上げたアルフェイオスが、バルムンクを押し上げる。今度は、もう一方の手にある刀にも付け入る隙を与えることなく、素早く持ち上げていった。

次の瞬間、オルティスはその目を一気に細くするとともに、突如として右手の刀を道ばたに落とした。

重苦しい音と共に、オルティスがその力を見せつけた武器が草の上でバウンドする。

オルティスは、空いた右手でバルムンクをすぐ持ち替え、再びバルムンクに襲いかかるアルフェイオスの動きを力ずくで止める。

普段から勝負している刀とほぼ同じパワーがバルムンクにも宿り始め、そのパワーはじわじわとトライブの右手にも伝わりだした。

両者の剣が小刻みに打ち付けるが、徐々にパワーのあるオルティスがアルフェイオスを押しやっていく。

だが、アルフェイオスがトライブの手前まで押されたとき、トライブは一瞬だけバルムンクから離し、その隙で真横からバルムンクを攻めた。

トライブの本気の一撃が、バルムンクを真横へ流していく。

トライブはすかさず、バルムンクの柄の近くに次の一撃を叩きつけ、バルムンクに宿ったパワーを一気に減らしにかかった。

オルティスも体勢を立て直そうとするが、普段使い慣れている武器と少し重さが違うだけで、動きがぎこちなくなっているように見えた。

その隙を、トライブは見逃さなかった。

五聖剣の一つに数えられたアルフェイオスのパワーが、なかなか力を入れられないバルムンクを真上から叩きつけ、冷たい土の上に勢いよく弾き落とした。

重苦しい音とともに、五聖剣どうしのバトルは決着がついた。

前屈みになりながら顔だけを上げるオルティスは、トライブに悔しそうな表情を見せていた。

オルティスは、トライブの言葉には全く耳を傾けることなく、落とした二つの武器を拾い上げ、再びバルムンクと刀をその手に携えた。

バルムンクは、負けるときに限って言えばオルティスのソウルウェポンではないようだ。