49 HP:0からHP:1へ
文字数 2,760文字
悲鳴にも近い、リオンの叫び声にソフィアは走り出した。
「ゲームマスター」たちから逃げようとしたとき、彼女は完全に方向感覚を見失っており、最初にいた日の差す空間にどう戻るのかさえ分からなかった。
だからこそ、ソフィアはこだまするリオンの声を頼りに、彼のいる場所を追わなければならなかった。
だが、いくつもの方向からこだまする声は、やがてソフィアの行く進路を惑わすことになった。
既に、戦闘で体力を消耗しているソフィアは、右手でオルティスの刀を持ったまま、左手を膝に当て前屈みになった。
リオンの声が再び聞こえてこなければ、場所を割り出すことすらできない。
ソフィアは、完全に立ち止まってしまった。
ここから抜け出すことさえできない状況に、そのまましゃがみ込もうとした。
だが、その時だった。
雑草を踏みつけた足跡で分かるよ。
リバーサイドタウンからオルティスを探しに行くとき、リオンはたしかにそう言っていた。
他に痕跡が残っていなくても、雑草を踏みつけた跡をたどれば、必ず追いつけると。
この時点で、「ゲームマスター」は別にしても、ソフィア1回、オルティス2回と雑草を踏みつけているはずだ。
それをたどっていけば、元の広場に戻ることができる。
ソフィアは、そう確信した。
人の身長ほどの幅しかない木々の間に、ソフィアの目の前にだけ激しく踏みつけられた雑草が見えた。
その先も、踏みつけられた跡が見える。
わずかな「光」を頼りに、ソフィアは前に進み始めた。
目の前に広場が見えてくるまでの時間は、彼女にとってあまりにも長く、そして遠く感じられた。
やがて、ようやく木が途切れている景色がソフィアの目の前に広がった。
ソフィアは、首を左右に動かし、リオンやオルティスの姿を見つけた。
すぐには分からなかった。
だが、風のざわめきが一瞬だけ止まったとき、息遣いがかすかに聞こえてくるのだった。
生と死を彷徨うような、苦し紛れの息遣いだ。
草を分けてその場所に進むと、木の陰でリオンがぐったりとしていた。
背は木にもたれているものの、首は垂れ、正面から刀で斬りつけられたような跡がある。
ソフィアがリオンの肩に触れたとき、彼の目はそっと開いた。
ソフィアは肩を掴んだまま、彼の体を左右に揺さぶった。
その度に、リオンの目は少しずつ開いてくるようだった。
ソフィアは、周囲を見渡しながら、その場に生えている草を注意深く見た。
すると、広場の手前に薬草のようなものが数多く見えた。
彼女はそれを手に掴めるだけ摘み、リオンのところまで届けた。
リオンは、ソフィアの持ってきた薬草を手にとって、それを自ら傷口に当てる。
傷が徐々にふさがっていくのを見て、リオンの苦しそうな表情は少しだけ緩んだ。
リオンが深いため息をつくのを、ソフィアは見つめるしかなかった。
それから彼女は首を横に振り、右手に持っているオルティスの刀を真横にして、リオンの前に置いた。
ソフィアは広場を指差して、一度だけうなずいた。
それから、やや声を小さくして、ささやくようにリオンに告げた。
ソフィアは、何か言い出すよりも早くうなずいた。
二人の間に、一瞬だけ木々の間から光が差すタイミングで、ソフィアは再び口を開いた。
アーディスは、「ゲームマスター」……、いや最強の銃使い・アッシュの逆恨みにあっている。
誰かがついていなければ……、誰かが「ゲームマスター」を止めなければ、アーディスは殺されてしまう。
それを、今までリオンに伝えなくて……、本当にごめん……。
だから……。
ソフィアは、オルティスの刀を少しだけリオンに近づける。
彼が小さくうなずくのを、ソフィアが顔を上げたときにはっきりと目にした。
リオンは、オルティスの剣を持つために、立ち上がろうとした。
だが、その直後に腰を押さえ、再び座り込んだ。
リオンがそう言ったとき、二人の耳に剣を叩きつけるような音が、遠くから聞こえてきた。
何が始まったのか、お互いの口から言うこともなく、二人はその音が聞こえるほうへと耳を傾けた。