14 ソフィアが襲われた理由

文字数 2,591文字

岩伝いに上へと登っていくトライブの耳に、ソフィアが地面になぎ倒される重苦しい音が響いた。

何度か足を踏み外しそうな、突貫で作り上げた地上までの道を、トライブはソフィアの姿を脳裏に浮かべながら進んでいく。


その下から、リオンもトライブの作った「轍」を使って上がっているようだ。



そして、トライブが地上に生えていると思われる草に手を掛けたとき、その手を力なく握るぬくもりを感じた。

トライブ……。

ソフィア……。


大丈夫……?

ソフィアの手に力はなく、その手を頼りに最後の道を作ることは不可能だった。

もろい土の上に左手を掛け、トライブは足場もなくぶら下がった状態になる。

右手に持っている剣で土に足場をつけようものなら、そこから崩れ落ちてしまいそうだ。

……っ!


あと少しなのに……!

体をボロボロにしてまで、強敵に何度も打ち勝ってきたプライドが、そこから落ちていくのを許さなかった。

トライブは体が落ちないように左手に力を入れ、同時にアルフェイオスを地上に投げた。

これで……、右手が自由になる……!

両手の力を頼りに、トライブは一気にその身を持ち上げた。

地上の景色が、彼女の目に飛び込む。


地上で待っていたアルフェイオスと、その横にボロボロの状態で倒れたソフィアの姿があった。ソフィアの腕には、ところどころ傷すら見える。

そして、その横にオルティスが使っている刀が見えてきた。どうやらソフィアの現在の武器、刀が奪われたわけではなさそうだ。


四つん這いになりながら地上に足まで乗せると、トライブはすぐにソフィアのもとに駆け寄った。

ソフィア……、どうして戦いに巻き込まれちゃったのよ……。

分からない……。


でも、私の前にやってきた青年は……、俺のソウルウェポンはそれだとか言い出して……。

ソフィアのソウルウェポンが、ストリームエッジって言わなかったの?

分かっていれば、言いたかった。

でも、この剣士とは初めて会うの。ストリームエッジと言っても、何のことか分からなかったかも知れないし……。

ソフィアは、そこまで力なく言うと、ようやく倒れた体を起こし、土で汚れたスカートをはたきながらトライブの手を掴んだ。

たしかに……。


ソフィアを襲ったアーディスは、私も未来の世界でしか会ったことがない。

もちろん、そこで見た彼も時空を超えてやってきただけの存在だけど。

アーディスって……、そう言えば言ってた。


たしか、元ソードマスターとも言ってたし。

そう、私と同じソードマスターよ。

戦ったことはないけど、その肩書を持っているだけでも、かなり強いってことになるわ。

そう言って、トライブはソフィアの傷や、やや離れたところにあるオルティスの刀を見た。

どうやら、アーディスの方は戦いたくて戦ったとしか思えなかった。



すると、ちょうどリオンが地上に足をつけ、トライブたちの横に駆け寄ってきた。

もしかして、アーディスと戦ったんか?

そう……。

さっき、トライブにも言ったけど、ソウルウェポンを持ってるだろって、いきなり襲ってきた。

やっぱり、それはひどいわよ。


考えられるとしたら、一つしかない。

アーディスも、この世界の「ゲームマスター」が決めたソウルウェポンを持たずに入ってきたってことよ。

その可能性、ものすごくありそう……。


アーディスの普段使っている武器を、私は知らないけど……。

ソフィアがそこまで言うと、リオンが何度か首を横に振りながらソフィアの目を見た。

デスティニーブレイカーという銃剣を、アーディスは使っている。

もっとも、いつの時代のアーディスがここに呼ばれたのかは分からないから、「オメガピース」のソードマスターだったときに何を使っていたかは知らないけどさ。

普通は、デスティニーブレイカーを使い続けてそう。

剣士って、最強の武器に出会ったら、絶対にそれを守り通そうと思うもの。

アルフェイオスだって、その覚悟で持ってるわ。

待って、トライブ。


彼は、銃剣なんか使ってなかった。

細長くて……、何と言うかどこからどう見ても普通の剣を持っていたの。

そんなわけ……。


いや、やっぱり「青い旗の騎士団」にいたときのアーディスなんかじゃないな。

でも、俺にはそれ以上に大きな謎がある。

考えるしぐさを見せるリオンに、トライブは軽く顔を向ける。

リオンは、ライトニングセイバーを何度か握って、それからソフィアの目を見つめた。

その謎って……?

そもそも、アーディスがそんなことする人間だと思えないんだ、俺には。

あいつは、騎士団の中でも先頭に立って相手に向かっていく割には、他人のことを気遣う面も目立っていた。


それが、「ゲームマスター」からソウルウェポンじゃないと言われて、たまたま他人の剣を持っていたソフィアに八つ当たりすると思えないんだ。

リオンだって、ああ言われてそんなことするわけないでしょ。

私たちと一緒に、ソウルウェポンを探しているわけだし。

勿論さ。


だから、アーディスがそこまで変わったということは、きっとアーディスを戦わせる何かがあったに違いない。

リオンがそこまで言ったとき、ソフィアが小さく手を上げて、やや恥ずかしそうな表情を浮かべながらリオンにうなずいた。

アーディスは、私を見たとき、むしろ持っている武器をじろじろ見つめていたような気がする。


私の武器が、使い慣れてない刀だったでしょ。

それで、私を強い剣士だと思ったの。

たしかに、オルティスの刀は見た目もインパクトありそうよ。

ソフィアがそれをソウルウェポンとして使っているのならまだしも、使いにくそうにしていた。

だから、アーディスはその刀が本当はソフィアじゃなくてアーディスのソウルウェポンだと思ったのよ。

なるほど。


逆に、使いにくそうに構えていたことが、アーディスをその気にさせちゃったってことか。

リオンがそこまで言うと、トライブとソフィアは同時にうなずく。

その推理で間違いないような気がする。

そうなると、さっきアーディスぽい人がアルフェイオスを穴に投げ入れてくれたのは……、私のソウルウェポンだと気付いたから……ってことになりそうね。

たぶんね。

実際は、どうなのか分からないけどさ。

リオンの一言で、トライブは薄笑いを浮かべた。


だが、その時、トライブの目にオルティスの刀の先が飛び込んできた。

私、決めた。


たとえオルティスの刀を持つことになっても、もう使い慣れてなさそうって言わせない。

そのために、私はこの刀でトライブと戦いたいのよ。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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