30 女王の前に立ちふさがるオルティス
文字数 2,516文字
壁からライトニングセイバーを引き抜き、刃の部分に手を掛けようとしたオルティスの前に、トライブが立った。
オルティスの目が、ようやくトライブに向けられた。
トライブは、アルフェイオスをゆっくりとオルティスに向け、目を細める。
だが、その目の前でオルティスはライトニングセイバーを壁に立てかけ、赤い髪を揺らしながら薄笑いを見せた。
トライブは、すぐに五聖剣の伝説を思い出した。
リオンがつい数時間前に、トライブに告げた言葉だった。
俺も聞いた話でしかないけど、五聖剣の力を一つに集めると、一本の大きな剣になるんだ。
オメガの国を守り、民を救うための、七色に輝く剣なんだけど。
オルティスは、その言葉を言うが早いか、大きな刀をトライブに向けた。
目を細め、オルティスの足が地面を蹴るのを見たトライブに、説明する時間は残されていなかった。
二人の剣士の足が、何のためらいもなくお互いの体に迫る。
剣と刀をやや高く上げ、二つの刃が交わるところでほぼ同時に素早く振り下ろした。
アルフェイオスの鋭い一振りが、オルティスの刀の動きを正面から食い止めた。
だが、刀の動きを食い止めたトライブの手に伝わったのは、オルティスの手の押し寄せるような力だった。
アルフェイオスが、じりじりとトライブの肩に引き寄せられていく。
一度はオルティスの刀を止めたはずのトライブが、足を一歩後ろに下げて踏み止まり、歯を食いしばる。
女王トライブの実力をもってしても、オルティスに完敗を喫したかつての記憶が、その手にかすかによぎる。
トライブは、オルティスの手の動きを見つめ、すぐさま下からアルフェイオスを振り上げた。
同時にオルティスは、一度刀を上げて、振り上げてくるアルフェイオスに上から斬りかかりに入った。
剣と刀が再びぶつかり、今度はトライブの力が徐々にオルティスの刀を押し上げる。
お互いの肩の高さまでオルティスの刀を跳ね返すと、トライブはその刀をオルティスの右に押しのけた。
オルティスもすぐさま反撃に入るが、わずかな隙を作ったオルティスを、「クィーン・オブ・ソード」の鋭い感覚は見過ごさなかった。
トライブが、アルフェイオスをオルティスの刀に向けて力いっぱい振り下ろす。
わずかな隙を見せた相手に、封じられることはないとその手は確信していた。
だが次の瞬間、オルティスは壁に立てかけた一本の剣に手を伸ばし、その剣を左手に持った。
二刀流だ。
振り下ろされたアルフェイオスを挟むように、オルティスは両手に携えた刃をクロスさせた。
トライブの渾身の一撃が、一本増えた剣を前にその輝きを失っていく。
二つの刃を見せつけ、その動きを止めたオルティスを細目で見ながら、トライブはアルフェイオスを向けたまま唇をかみしめた。
たしかに、かなりの実力を持った二刀流の剣士に打ち勝ったことはある。
だが、目の前にいる相手は、これまでトライブが戦った相手の中で三本の指に入るほどの強敵だ。
ためらっていないにも関わらず、トライブの足が前に出ない。
トライブは、オルティスの刀よりも、むしろライトニングセイバーを見つめていた。
慣れないはずの剣を、持ち手でない手で操ることとなるので、どうしてもまともに扱うことができない。
急所はそこだ。
「剣の女王」が何千回、何万回と戦いの数を積んだ中で出した結論は、それだった。
だが、オルティスはもはや次の一手を仕掛けてこない。
それどころか、冷ややかな目でこう言った。
トライブは、思わぬ提案に目をより細めた。
たった一本の剣で強敵を打ち破ってきた彼女にとって、決して認められる提案ではなかった。
そして、しばらくして、やや低い声でこう返した。
目の前の相手に負けたくない。
「剣の女王」のプライドが、ここで戦闘を終わらせることを許さなかった。
二刀流になったオルティスを相手に、トライブは勝負に勝つことしか道が残されていなかった。
トライブは、二つになったオルティスの刃をじっと見つめ、足を踏み出すタイミングを見計らった。
だが、わずか数秒後、トライブの目に映ったのは通路の反対側から駆けてくるリオンたちの姿だった。