28 「ゲームマスター」、剣を抜く!

文字数 2,632文字

離して……っ!

「ゲームマスター」に掴まれたソフィアは、体を左右に揺らしながら何とかその手から逃れようとしていた。

だが、力ずくで持ち上げた「ゲームマスター」の手は、簡単に離してはくれなかった。

俺があの時、何と言ったか忘れてるんじゃないだろうな。


殺すとも言ったはずだ。

そのリスクを犯してまで、その名を口にするとは、生きる権利を失ったと同じだ。

私は、名前しか言ってない。

彼が……、どういうことになるかまでは……、私は何も言ってない!

私も、名前しか聞いてないわ。


ソフィアを離しなさいよ!

ムダだ。


ここでソフィアという女剣士は、この世界から消されることとなる。

そう言うなり、「ゲームマスター」はソフィアを地面に突き飛ばし、すぐに右手から紫色の光を放った。


その手には、エクスリボルバーがしっかりと握られていた。

さぁ、俺と戦うがよい。

オルティスに完敗を喫したお前の実力なら、死に至るまでそう時間は残っていないはずだ。

分かった。

このゲームにいる以上、私も自分のソウルウェポンで戦うわ。

臨むところだ。
そう言うなり、「ゲームマスター」の足が地を蹴り、エクスリボルバーを上から下に振り下ろしながらソフィアに迫った。
振り降ろしが……素早いわ!

トライブが「ゲームマスター」の剣の動きをじっと見つめる中、ソフィアはストリームエッジを正面から突き出し、「ゲームマスター」の剣の動きを食い止めようとした。


だが、振り下ろされた剣のパワーに圧倒され、ソフィアの足が一歩ずつ後ろに下がっていく。

反撃しようにも、「ゲームマスター」が次々と剣を叩きつけ、その度にソフィアの手に力が入らなくなっていく。

お前の抵抗も、ここまでだ!
……っ!

何回かに渡って正面から攻撃し続けた「ゲームマスター」の剣が、再び真上に上がった。

次の動きを考える余裕擦らないソフィアも、何とか剣の動きだけはその目で追うことができたが、それがせいぜいだった。


振り下ろされたエクスリボルバーが、ソフィアの右肩を切り裂き、ソフィアはストリームエッジを持ったまま地面に叩きつけられた。

お前はもう、立ち上がることなどできない。

「ゲームマスター」の足が、ソフィアを上から踏みつけようとしていた。

そのすぐ後には、鋭くとがったエクスリボルバーが、ソフィアの心臓にまっすぐ向いている。

やめて……!

こんなところで……、死にたくなんか……、ない……っ!

ソフィア……!

トライブの足が、ついにソフィアに向けて飛び出した。


そして、その手に持ったアルフェイオスで、振り下ろそうとしたエクスリボルバーに激しく叩きつけた。

邪魔するな!

ソフィアは……、私が守る!

フッ……、そう言うか。


お前の剣も、所詮五聖剣。

剣の実力が伴った俺に、同レベルの剣で勝ることはできない。

やってみなきゃ分からないわ。


このゲームに臨むアルフェイオスだって、本気なのよ!

トライブは、やや目を細くして「ゲームマスター」にまっすぐアルフェイオスを向けた。

「クィーン・オブ・ソード」の輝きが、いま黒きシルエットに向けて解き放たれようとしている。

トライブ……、負けないで……!

ソフィアがようやく体を起こし、トライブと「ゲームマスター」から身を離し、向き合う二人をじっと見た。


同時に、「ゲームマスター」の足が軽々しく地を蹴った。

お前には、手加減しない……!

はあっ……!

ソフィアのときと同じように、「ゲームマスター」はエクスリボルバーを振り降ろしながらトライブに迫る。

それを見て、トライブもアルフェイオスを持ち上げ、やや高いところで相手の剣にぶつけようとした。

その剣は、俺の前に簡単に跪く!

両者の剣が、トライブの目ほどの高さで激しくぶつかった。

アルフェイオスが下に回り込んでいるが、そこでトライブは剣を持つ手に力を入れ、それ以上下げるのを食い止めた。


そして、一瞬エクスリボルバーから力が抜けたとき、トライブはアルフェイオスを一気に上げ、エクスリボルバーをトライブの右に反らした。

今度は、私の番ね!

トライブは、少し手前に引かれたエクスリボルバーに、アルフェイオスを強く叩きつけた。

今度は正面でぶつかる。その時には、「ゲームマスター」も体勢を立て直し、迫ってきたアルフェイオスを懸命に食い止める。


そして、すぐに「ゲームマスター」の側から剣の打ち合いに持ち込んでいく。

……っ!

体の重心を限りなく前に傾けながら、「ゲームマスター」の剣がトライブのアルフェイオスを次々と叩きつけにかかった。

トライブの手に、「ゲームマスター」のパワーがじわじわと伝わる。


トライブは、足を引かないように重心をかけるが、体が徐々に反っていくのを感じずにはいられなかった。

このまま押され続けるわけには……、いかない!

エクスリボルバーの動きを何とか止めるのが精一杯のトライブは、ここで体を右に反らし、その隙にアルフェイオスを持つ手に力を入れた。

そして、「ゲームマスター」が体の向きを変えた瞬間、その正面に向けられたエクスリボルバーに向かって、アルフェイオスを鋭く叩きつけた。

はああああああっ!

エクスリボルバーに芯をぶつけた。

力強く叫ぶ女王の感覚は、勝利への確信に変わった。



だが、相手が叩き落としたような音は――なかった。


地面に向かってエクスリボルバーが傾いただけで、「ゲームマスター」が肩で激しく呼吸をしながら、その手で懸命にこらえていたのだった。

トライブのあの一撃で……、決まらない……!
ソフィアがそう叫んだとき、不意に「ゲームマスター」が光を放ち、エクスリボルバーをゆっくりとその手から消した。
勝負ついてないのに、どうしてしまうのよ。

トライブ。

今日は、実力を見ただけだ。



剣のレベルだけでは想像付かないほど、お前は強い剣士のようだ。

さすが、周りから「剣の女王」と呼ばれるほどはあるな。

そう言うってことは、またいつか、戦うことになるわけ?

勿論だ。


今日のところは、これで立ち去ることとしよう。

「ゲームマスター」は、続いてソフィアに体を向けて、右腕を伸ばして強く言った。

お前は、生かすこととする。

あの名前を口にしても構わない。

生きていても、どうせ「ソードレジェンド」の頂点には立てないはずだ。


少なくとも、お前が永遠のライバルにしているトライブとは、天と地の差だ。

その言い方は……、ないわ……!

ソフィアが立ち上がろうとしたとき、「ゲームマスター」はその姿を光の中に消した。

そのシルエットが消えていくのを、トライブとソフィアは、ただ目で追い続けるしかなかった。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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