06 リオンとの再会

文字数 2,552文字

全然剣士と出会わないわ。


街もなさそうだし、あの森の中で木の実を食べたり、モンスターの肉を食べたりするぐらいしかできそうにない。

「ソードレジェンド」だというのに……、私たちとオルティス以外に呼ばれていないとか、考えたくない。

トライブたちは、通常のミッションであれば用意されているはずのヒントが一切がない状態で、ひたすら草原の中を歩き続けた。

オルティスですら、トライブたちの前に戻ってくることはなかった。


何より、「ゲームマスター」の作った世界ということもあり、人間が周りにいないため、街のにぎわいがない。普段は人間に追いやられている生物が恐れることなく暮らしているだけだった。



1時間ほど歩き、トライブたちは森の入口にたどり着いた。

草原ばっかり歩いているのもなんだし、道が森につながっているみたいだから、この先に行ってみたくなってきたわ。

それ、いいんじゃない?


もしかしたら、森の中にゲームに呼ばれた剣士たちのアジトとかありそうな気がする。

それはあるかも知れない。


でも、もしそんなアジトがあったら、今頃そのアジトの中で戦いが繰り広げられてそうね。

トライブは、そこまで言うと急に立ち止まって、上を見上げた。

ソフィア。


剣を叩きつける音、聞こえる?

……聞こえない。


木の枝が風に揺れる音しか、耳に入らない。

そう……。

トライブは、ソフィアの前に立ち、その耳でこの森に潜む剣士の姿を確かめようとした。

だが、剣と剣がぶつかり合う音は全く聞こえず、ソフィアの言う通り自然の音しか聞こえてこなかった。

トライブ。


やっぱり、剣士は私たちとオルティスだけなのよ。

私のソウルウェポンが負けて、あとはアルフェイオスとオルティスの刀だけで勝負を決めるんじゃない?

それが一番ありえそうな気がするんだけど……、もしそうだとしたら、どうしてさっきオルティスが攻撃してこなかったのか分からないのよ……。



だから、送り込まれた剣士は絶対に3人だけじゃない。

トライブは、再び森の奥へと足を進めた。

歩く間も、時折上を向いて剣士の気配を確かめていたが、それから10分が経ってもその予兆すら二人には訪れなかった。



やがて木々の間隔が開き始め、上から光が差し込んでくる。

休むのにちょうどいい小さな岩も、その場所に三つ並んでいた。

長く歩いたから、少しだけ休むわ……。


全然手掛かりがつかめないけど。

休んだら、少しは手掛かりを考えられそう。


こういう時こそ、先回りは禁物かも知れないね。

ソフィアの言う通りよ。

二人は岩の上に腰を下ろし、何度目か分からないほど上を見上げた。

木々の間からこぼれてくる光が、二人を眩しく照らす。



数秒後、ソフィアの体が小さく動いた。

誰かが歩く音が……、聞こえてくる……。


意外と近くにいるかもしれない。

ソフィア、もしかして聞こえたの?

ほら、トライブ。


この何かを蹴り上げるようなしぐさと、その音が聞こえる間隔。

やっぱり、人間がこの近くにいるとしか思えない。

ソフィアに促されるように、トライブも耳を澄ました。


ほんのわずかではあるが、ズサッ、ズサッと音の反射しているが分かった。

なんか、歩き方がオルティスぽくないような気がする。

そんなゆったり歩いていないし。


そうなると、「ソードレジェンド」に送り込まれてきたのは誰かしら……。

トライブは、いよいよ立ち上がって前後左右を何度か見渡した。

そして、森の奥から音が聞こえてくることをその耳で突き止めた。

たぶん、あっちから来るわ。


誰が相手でも、私はアルフェイオスを最強だと信じて戦う。

トライブは、アルフェイオスの剣先を足音の聞こえるほうに向け、新たな剣士の出現を待つ。

時間を追うごとに、その目が徐々に鋭くなってきているのが、トライブ自身にもはっきりと分かった。



やがて、強い風が森を吹き付け、太い木の枝がわさわさと揺らぎだしたその時、一本の剣の輝きがトライブの目に留まった。

来たわ……。


あれは、明らかに剣を持った人間ね。

誰がやって来るんだろう……。


私たちが知ってる剣士じゃない可能性だってあるかも……。

トライブの細い目は、剣の姿を捕らえ、その後すぐにその人物の輪郭を捕らえた。


短い茶髪を揺らしながら、緑色のマントをトライブに小さく見せている。

そして、顔までもはっきりとトライブの目に浮かび上がったとき、彼女は思わず息を飲み込んだ。

彼ね……。


私が決着をつけていない、因縁の剣士……。

トライブ……。


じゃあ、私たちも戦ったことのある剣士なの?

戦ったとしたら、私だけ。


未来の世界で一緒になった剣士なのよ。

その名を、リオンと言うわ。

リオン……。


もしかして、私が生まれる前にソードマスターになった、青年剣士……。

オメガピースの応接室で、すごくイケメンなソードマスターの肖像画を見つけたような気がするけど……、その彼ぽい。

そう、その彼よ。


ライトニングセイバーも、この「ソードレジェンド」に参加することになったわけね。

ワクワクしてくるわ。

そう言いながら、トライブはゆっくりとアルフェイオスを正面に向け、今にでもリオンと戦えるような姿勢で出迎えることにした。



だが、対するリオンはその手にライトニングセイバーを持つことなく、そのまま真っすぐトライブの前までやって来て、その目をじっと見つめた。


明らかな温度差があるようにしか、トライブには思えなかった。

その中で、リオンの口はこう告げた。

女剣士……。


俺はこの後、いったいどうすればいいんだ……。

リオン……。


あなたは、リオンなんでしょ?

どこからどう見たって、リオンとしか思えない。

トライブは、再会を果たしたリオンへ、両手を彼の肩に載せようとした。


だが、リオンは一度首を横に振り、トライブの誘いをあっさりと拒んだ。

どうして、俺の名を知ってるんだよ……。


俺は、お前たちのことを……、知らないのに。

えっ……。

リオンの発した言葉に、トライブは思わず苦笑いした。

そしてすぐさま息を飲み込み、リオンが知っているはずの姿を、彼に向けてわずかに近づけた。

それでも、リオンの表情が和らぐことはなかった。



すると、ソフィアがトライブの横に立って告げる。

たぶん、トライブと出会う前のリオンだと思う。


それだったら、リオンがトライブを知らないのも納得いくんじゃない。

なるほど……。
トライブは、納得したように小さくうなずいた。
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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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