08 空しき勝者
文字数 2,711文字
9代目ソードマスター、リオン。
17代目ソードマスター、トライブ。
未来の世界で二人が剣を交わしたとき、互角のまま勝負がつかず、外部からの邪魔が入り、決着は持ち越しとなった。
そして、全ての任務が終わったときには、その場にリオンの姿はなかった。
だからこそ、トライブは普段以上に戦闘意欲が高揚する。
かたや、初めての対戦となるリオンは、じっとライトニングセイバーを見つめている。
二つの力が一直線に結ばれ、二人の目線も剣に誘われるように交わりあう。
トライブの足が、森の土を蹴り上げリオンへと突き進む。
勝負開始だ。
リオンが、すかさずライトニングセイバーを横に傾け、正面からぶつかろうとするトライブの動きを止めに出た。
トライブの持つアルフェイオスが、激しい音を立ててリオンのライトニングセイバーにぶつかる。
力ずくで押していこうとするトライブに、リオンが足に力を入れて抵抗する。
両者の力はすぐに拮抗し、トライブはライトニングセイバーを弾くまでに至らない。
逆に、リオンが手の力を強め、アルフェイオスをその場から弾こうと剣を前に押し出す。
トライブは、アルフェイオスをやや手前に引き、素早く持ち上げてから一気に振り下ろした。
リオンもすぐにその動きを察したのか、真横にしていたライトニングセイバーを下から持ち上げていき、振り下ろされたトライブの剣を弾こうと、リオンの右肩近くに向かって一気に押し出した。
狙いを外されたトライブは、リオンの剣に阻まれ、前に押すことも振り下ろすこともできなくなった。
逆に、じりじりとリオンの剣が押していく。
互角のつもりで始まった勝負は、再びリオンの防御が勝る展開になりつつある。
守るリオンに、トライブは隙を見つけられない。
高まるリオンの声に、ライトニングセイバーもその勢いを強め、ついにトライブのアルフェイオスを軽く弾いた。
ほんのわずか、トライブの足が後ろに下がる。
それでもトライブは、相手のパワーに怯えなかった。
すぐにアルフェイオスを構えなおし、リオンの剣を再び上からを叩きつけようとする。
桁違いのパワーを解き放つ、「剣の女王」の力強い叫びが舞い上がった。
先程よりも集中力を高め、トライブは風を切るようなスピードで剣を振り下ろした。
先程とほぼ同じ動きでアルフェイオスに迫ったリオンは、トライブの力を止めようとするが、じりじりと押されていき、ライトニングセイバーの高さを下げられる。
だが、このまま傾けられるかと思われたライトニングセイバーは、トライブの肩の高さで踏みとどまり、今度はリオンの力に阻まれることとなった。
突然、トライブの右手をリオンの激しいパワーが襲った。
リオンが急に剣を引き、アルフェイオスをややリオンの側に引き寄せたところで、下から一気に叩きつけたのだ。
またも弾かれたアルフェイオスに、すぐさまライトニングセイバーが激しくぶつかっていく。
かなりのスピードで剣を打ち合っていくリオンに、トライブはその速さについて行くだけでやっとだった。
じわじわとトライブの側にアルフェイオスが押されていく。
ライトニングセイバーが叩きつけるたびに、トライブは体力が奪われていくことをはっきりと感じた。
トライブは、消えかけようとしていた気力を高め、じっとリオンを見つめた。
そして、リオンの攻撃がわずかながら止まったのをその手で感じた瞬間、アルフェイオスを持つ手の力を一気に強めていった。
一瞬の隙を、勝利へと変える。
「クィーン・オブ・ソード」の研ぎ澄まされた集中力は、どんな劣勢をも勝利へと導こうとしていた。
出せる限りの力で、トライブはアルフェイオスを勢いよく振り下ろし、リオンの持つライトニングセイバーを一気に叩きつけた。
激しい音とともに、リオンの剣が一気に下に向けられた。
しかし、その瞬間にトライブの目に飛び込んだのは、リオンの力尽きた表情ではなく、その剣から解き放たれた真っ白な光と、その光に隠れた彼の真剣な表情だった。
白い光を解き放ったライトニングセイバーが、まるでスピンでもかかっているかのように、アルフェイオスを一気に押し戻す。
そして、体勢を崩されたトライブの剣に向かって、すかさず斜めからライトニングセイバーを激しく叩きつけた。
白い光に導かれたパワーで、トライブの右手は強烈な痛みに溢れかえった。
これまで数多くの強敵を打ち砕いた彼女の力をもってしても、耐えられない圧倒的な力。
「剣の女王」が、これ以上戦うことは、できなかった。
アルフェイオスが、トライブの前に力なく落ちていく。
悲鳴にも近いソフィアの声に、トライブは苦しそうな息を吐きだすことしかできなかった。
落ちたアルフェイオスを一目見て、勝負の結果を確かめた。
そこに、リオンがゆっくりと近づいてきた。
そう言って、リオンはトライブに背を向けようとした。
しかし、すぐにリオンはその動きを止め、土の上に転がったままのアルフェイオスを見つめた。
リオンの足が、とっさに震えた。
トライブは、落ちたアルフェイオスをゆっくりと拾い上げ、触り心地や重さなど、普段と何も変わらないことを確かめた。
それと同時に飛び込んできたのは、リオンの疲れ切った表情だった。
ソフィアの声が森の中を重々しく流れていくと、リオンはついに中腰になり、ライトニングセイバーを土の上に置いた。
そして、その剣を見つめたままじっと動かなくなってしまった。
落ち込んだリオンの姿を見て、トライブがゆっくりとリオンに向かって歩き出した。