32 定められた剣

文字数 2,533文字

アーディス。

これが、このゲームの中で持つべきだったソウルウェポンだ。

ありがとな、リオン。


さっき、この女が言ってたように、剣を交換するというのは大変なことだけど、俺はライトニングセイバーでまともに戦えるようになりたい。

あぁ。

俺だって、このヘヴンジャッジを使いこなせるようになりたい。

そう言うと、アーディスはライトニングセイバーを強く握り、ちょうどリオンがトライブに見せたように、その剣を白く輝かせた。

これでいいのか、リオン。

これでいい。


剣に気持ちを込めるんだ。

そうしたら、ライトニングセイバーの力が発揮できるんだ。

分かった。


リオンの方は、ヘヴンジャッジをまともに操れそうなのか。

あぁ。


なかなか難しいけど、俺だってソードマスターなんだし、扱えないなんて絶対許されないよ!

そう言うと、リオンはヘヴンジャッジを軽く振り、それから通路の天井すれすれまで高く上げ、一気に振り下ろした。

剣が鋭いからだろうか、ライトニングセイバーを使っているときのリオンよりも、その動きに力がこもっているように、アーディスの目には見えた。

なかなかいいじゃん。

斬り込み隊長リオンの誕生だな。

斬り込み隊長は、剣が変わってもアーディスだよ。

俺はただの騎士団長さ。あはは。

リオンは、アーディスに向けて軽く笑ってみせた。

だが、その向こうにいるアーディスの顔は少しも笑っていなかった。

リオン。


俺は、このゲームを本気で制したいからな。

さっき変な邪魔が入って、二人でいろいろやっていたようだが、俺はあくまでも真っ当な方法で勝ちに行く。

そのつもりでいろよ。

そう言うと、アーディスはライトニングセイバーをまっすぐリオンに向け、目を細めた。


その様子を、トライブとソフィアは遠目から見つめた。

ちょうど、私たちのようね。

仲がいい分だけ、本気で戦い合える相手なのかも知れない。

まぁ、そう見えなくもないかな……。


ただ、リオンとアーディスの間には温度差がありそう。

リオンはオルティスの野望を止めようとしているのがメインだけど、アーディスはそんなこと無関係だし、今だってそんなこと言わなかったでしょ。


今は戦っている場合じゃないはずなのに。

そうね。


本当の勝者は決めないといけないけど、その前にオルティスを止めるかどうか。

それで温度差ができているのかも知れない。

そう言うと、トライブは「新しい武器」に一生懸命慣れようとしている二人を見て、小さくうなずいた。

その横から、ソフィアがそっと言葉を挟む。

トライブは、この「ソードレジェンド」で勝とうとしているの?


最強の剣をアルフェイオスにしようとしているわけ?

当たり前じゃない。


それじゃなきゃ、参加している意味がないわ。

ソフィアだって、私やアーディス、リオン、それにオルティスに勝てる可能性もあるじゃない。

やっぱり、ね。

そう言うと思った。


じゃあ、なるべくならオルティスと戦わないほうがいいような気がする。

オルティスだって、このゲームにいるじゃない。

戦わなきゃいけないし、それで野望も止めないといけない。

トライブが小さい声でそう答えると、ソフィアが首を軽く横に振った。

それも間違いじゃないと思うんだけど……、オルティスと会う前に「ゲームマスター」に五聖剣をもっと渡した方がいいと思う。


それに、私がオルティスを倒せれば、オルティスの武器は私のストリームエッジになる。

アルフェイオスより破壊力のない剣を持ったら、オルティスだってこのゲームの中に居続けることができなくなるはず。

そ、そうね……。


ソフィアの持っているのだって、五聖剣じゃないわけだし、オルティスが一番手に入れたくない剣だと思う。



ということは……。

そう言うと、トライブはソフィアから目を反らし、二人の男剣士にその視線を寄せた。

そして、小さくうなずくとソフィアに振り向いた。

それだけを考えたら、あれでいいのよ。二人は。

あれで……、いいの……?

リオンだって、今はあんなこと言ってるけど、いざバトルになったら本気で攻めてくる。

そうなったら、ライトニングセイバーかヘヴンジャッジが「ゲームマスター」のところにいくわ。


でも、もう一方ではそれでいいのかな、って思ってる。

トライブ、悩んでるね。


たぶん、一番力を出せる剣で戦って欲しいというのがトライブの一番の理想でしょ。

トライブはソフィアに軽くうなずき、アルフェイオスの剣先をそっと地面につけた。

本当はそう。


最強の剣をアルフェイオスにしたいという気持ちと、剣士たちが自分の剣を失って欲しくない気持ちで、揺れ動いている。

少なくとも、オルティスがあんなことを言ったから、素直に勝負したい気持ちになれなくなってる。

トライブ。


弱音を吐かない方がトライブらしいのに。

弱音なんて吐いてない。


ただ、オルティスのせいでこのゲームを壊されて、許せないと思っているだけよ。

このゲームを利用して、五聖剣の伝説を形にしてしまうなんて、本当に最低の剣士だと思う。

本当かな……。

ソフィアの口から小さなため息がこぼれるのを、トライブはその耳ではっきりと聞いた。

普段と何も変わらない表情を見せようとするソフィアだったが、瞳の奥からこぼれ出した「真の黒幕」を隠すことができなかった。

本当に止めないといけないのは、オルティスじゃないのかも知れない。


……「彼」は本気よ。

そうね……。


変なことにならなきゃいいけど……。

私たちは、そっちのことも気にしないといけないわけよね。

そう言うとトライブは、二人の会話に聞く耳を持つことなく剣の練習に励む、リオンとアーディスの顔をわずかな時間見た。

そして、つい数時間前にソフィアの口からこぼれた、「ゲームマスター」の真の野望を頭の中に思い浮かべた。

バルムンクを除けば、五聖剣のありかは全て分かっている。

とくに五聖剣を持つ剣士が負けてはいけないのよ。

トライブは、アルフェイオスを再び高く持ち上げ、力いっぱい握りしめる。

これまでバトルを共にしてきた、トライブの力を最も示してきた剣が、かすかな灯りに照らされ輝く。



その時だった。

トライブの入ってきた入口とは反対側で、街の人々のものと思われる悲鳴が上がった。

私、ちょっと見てくるわ。
トライブは、他の三人の剣士に向けてうなずくと、アルフェイオスを持ったまま走り出した。
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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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