50 剣の女王 vs 邪悪剣士
文字数 2,528文字
トライブの目に、かすかな光が飛び込んできたとき、彼女は即座に何が迫ってきたのかを察知した。
アーディスのそばから立ち上がり、すぐにアルフェイオスを構える。
トライブは、アーディスに一度だけうなずき、光の差す森の方に目をやった。
遠くに、オルティスのものとおぼしき赤い髪がはっきりと映った。
「彼」は、既に刀を右手に構え、薄笑いを浮かべてトライブを見つめている。
その勝ち誇ったような表情が、トライブの目にも伝わった。
これまで、「ソードレジェンド」の中でトライブが剣を抜いたことはあっても、ソウルウェポンを落としたことは一度もない。
ソウルウェポンを落としたのは、オルティスであり、ソフィアであり、それにリオンだった。
だが、そのうちオルティス以外は全てソウルウェポンを失っている。
わずか一度のバトルとは言え、この勝負にさえ勝てばトライブが「ソードレジェンド」の頂点に立つことができる。
「クィーン・オブ・ソード」の目が、彼女自身が「強敵」と認める剣士に向けて、徐々に鋭くなる。
トライブの持つアルフェイオスと、オルティスの持つ刀が、まっすぐに結ばれる。
拳三つほどの隙間を空けて、早くも両者の剣先に力を集め始めた。
そして、トライブとオルティスが息を合わせたかのように、同時に地を蹴った。
二つの刃が、あっという間に激しくぶつかる。
二人のちょうど中間で垂直にぶつかった刃は、力と力が拮抗する。
トライブは、徐々に力を入れていくが、オルティスの頑丈な刀を押すことができない。
二刀流の時と違い、オルティスが刀だけに集中している証だ。
トライブが心にそう言い聞かせたとき、オルティスが刀を軽く振り上げるしぐさを見せるのが見えた。
先に状況を打ち破ろうとしている、と悟ったトライブも、わずかに遅れてアルフェイオスを引き、オルティスの刀よりも高く振り上げた。
力ずくで振り下ろしたアルフェイオスを、オルティスが刀で受け止め、すぐにアルフェイオスを押し上げる。
間髪おかずに、オルティスは弾き返したアルフェイオスに真横から刀を叩きつけた。
トライブは、弾かれた瞬間にアルフェイオスに入れる力をさらに上げるものの、激しく襲いかかった刀の力に、その右手に鋭い痛みすら感じた。
そして、次の瞬間、さらにオルティスの一撃がアルフェイオスに襲いかかる。
トライブの足が、わずかによろける。
目だけは鋭くオルティスを見つめているものの、あっと言う間にたたみかけられようとしている戦況に、トライブは追い詰められていた。
これまで「ソードレジェンド」で数多くのバトルを経験したオルティスと、一度も決定的な勝負をしていないトライブとの違いであるかのようにさえ見える。
だが、数歩後ずさりした「剣の女王」の目は、ほんのわずかアルフェイオスの剣先を見つめていた。
剣に賭ける想い。
それは、トライブのほうがはるかに上回る。そう信じた。
自然と、アルフェイオスにかかる力が高まっていく。
たとえ、オルティスが最後の一撃を振り下ろそうとしているその中でも、女王は慌てなかった。
振り下ろされたオルティスの刀に立ち向かうように、トライブはアルフェイオスを力いっぱい振り上げた。
彼女の肩の高さでぶつかった二つの刃。今度は、徐々にトライブがオルティスの刀を押し上げ、彼女の右へと弾き返す。
弾いた刀目掛けて、トライブはすぐさまアルフェイオスを振り上げ、さらにオルティスの右へと傾ける。
オルティスも正面に刀を戻すが、トライブはそこに向かって一気に横からアルフェイオスで攻めていった。
オルティスの刀が、ようやくトライブの連続攻撃を受け止めた。
だが、その力でさえ、トライブの手にはまばらであるかのように伝わった。
相手がわずかな隙を見せたとき、「クィーン・オブ・ソード」の名に恥じない力を、彼女は解き放つ。
激しい叫びとともに、トライブのアルフェイオスが疾風のようにオルティスの刀に向かって駆け抜けた。
刀は舞い、木の幹に当たった後、力なく地面に落ちていった。
跪いたオルティスの手には、アルフェイオスのコピーが握られていた。
だが、オルティスはそれをすぐに鞘にしまい、一度だけ首を横に振ってトライブに背を向けた。
「ゲームマスター」とは関係なく、私の手で五聖剣を全て集めたかった。
それだけの理由で、私はこのゲームにプレイヤーとして参加した。
だがな、結果私がソウルウェポンで手にした五聖剣は、バルムンク一つだけだ。
それすらも、リオンによって失われたわけだからな……、このゲームは、私の完敗だ。
トライブがそっとうなずくと、オルティスが一度振り返り、小さくうなずいた後に一歩、また一歩と歩き出した。
彼女が何度も見かけた薄笑いさえ、この時のオルティスにはなかった。
やがてオルティスは、森とは真逆のリバーサイドタウンの方向に消えていき、地平線の下へと沈んでしまった。