53 「最強」の代償
文字数 2,773文字
突き専門の五聖剣、エクスリボルバーで肩を貫かれたトライブは、左手でとっさに右肩を押さえた。
だが、容赦なく攻撃を繰り返すアッシュを前に、傷をかばう余裕すら許されない。
「剣の女王」は、それでも立ち向かわなければならなかった。
相当の体力を消耗し、フルパワーからほど遠くなっていることは、トライブには分かっていた。
それでも、出せる限りの力でアルフェイオスを上から叩きつけ、エクスリボルバーを食い止める。
回転しながら迫るエクスリボルバーを、何とか下に傾け、その隙に後ろへジャンプする。
そこから真っすぐアッシュに迫り、再びアルフェイオスを上にかざした。
トライブが叩きつけようとしたエクスリボルバーは、端をかすめただけでかわされ、アルフェイオスを手前に戻すよりも早くトライブの前に迫ってきた。
既に肩に傷を負っている状態では、体ごとよけるしかなかった。
ジャンプした場所でアルフェイオスを立て直すが、そのたびに構えたところと違う方向からエクスリボルバーが迫ってくる。
数十センチのところで食い止めるのがやっとで、もはやそこから左右に押し流すだけの余裕もなかった。
その間にも、容赦なく襲い掛かる、右肩からあふれ出る痛み。
徐々に、トライブの右手に力が入らなくなってくる。
もはや「剣の女王」のプライドだけで、剣を握りしめるトライブ。
だが、力が拮抗しているかのように見えた時間は、あっと言う間に終焉を迎えた。
アッシュがそう言い終わると同時に、エクスリボルバーをスピンさせアルフェイオスを叩きつけ、トライブの左に傾ける。
続いて、傾けられたアルフェイオスの下からエクスリボルバーを叩きつけ、さらにトライブがアッシュの動きを見ようとする間に三たびアルフェイオスを叩きつけた。
トライブの耳でさえ、自身の激しい呼吸が耳に飛び込んでくる。
次々と相手の攻撃を決められ、押され続け、反撃を考える余裕すらない。
次々とあふれ出る痛みをこらえながら、立っているのがやっとだ。
その意識すら、少しずつ消えていこうとしている。
満身創痍の女王が、荒い呼吸に消えようとしていた。
トライブが引きちぎれるような右手の痛みに耐えられなくなっていたところに、エクスリボルバーに右手すれすれを叩きつけられた。
アルフェイオスは力なく弾き飛ばされ、そしてトライブでさえ背中から地面に叩きつけられた。
トライブの倒れた横に無残にも転がったアルフェイオスが、彼女の目の前でスーッと消えていった。
パワーと実力の差を見せつけられ、なすすべもなく力尽きた「クィーン・オブ・ソード」。
ボロボロになった彼女に寄り添うかのように、ソフィアが涙目でその体に駆け寄る。
だが、アッシュが一足早く、エクスリボルバーをトライブの顔すれすれにかざし、ソフィアの動きを止める。
理解はしたようだな。
当然、今回ゲームに呼んだメンツも、その中でお前が最強になるように仕組んだ。
そして、最初お前がリオンに負けて「リオンだけには負けたくない」などと思わせるよう、リオンのライトニングセイバーの破壊力を少しだけ上げた。
何もかも、俺が設定を決めた。
まだ右肩が痛む中で、トライブは出せる限りの声を上げた。
その手は、自らが全く太刀打ちできなかったエクスリボルバーを掴もうと、少しずつ地面から離れていく。
それを見て、アッシュはエクスリボルバーを上げ、黒い光の中に消してしまった。
もはや、誰も抵抗できないところで復讐を完成させるために、な。
今回のメンツで、誰もがその実力を認めるトライブが、俺にあっけなく負けたことで、もう誰も抵抗することはなくなるだろう。
仮に抵抗したとしても、俺の最後の武器にかなうことはないが。
ソフィアが、ついにアッシュに向けて再び迫りだした。
だが、アッシュはソフィアを軽く睨み付けるだけだった。
オルティスの刀をリオンに渡したことを、ソフィアは悔しがった。
トライブを代弁するかのように歯ぎしりを浮かべるだけで、それ以上何もできなかった。
その中で、アッシュは低い声のまま、トライブに告げる。
トライブは、アッシュに言われるがままに右手を握りしめた。
アルフェイオスを持っていたはずの右手から、何も感じられなくなっていた。
これまで、このゲームでついた勝負では、全て勝者の剣のコピーを敗者が持つことになっていた。
それがないことに、トライブはすぐに気が付き、アッシュを睨み付けた。
しかし、それすらもアッシュの考えたシナリオにすぎなかった。
ルールはルールだ。
だが、俺にはもともとソウルウェポンなどない。
いや、「無」という名のソウルウェポンを、ずっと操り続けてきた。
当然、俺に負けたお前は、その状態を引き継ぐことになる。
だから、お前が持つべき武器は、ない。
そう言うと、アッシュは黒いシルエットに包まれ、トライブが悔しがる中でその身を消してしまった。
後には、武器を持たない二人の女だけが残された。