22 ソフィアの剣との交換条件
文字数 2,645文字
翌日も、三人の剣士はリバーサイドタウンに一日張り込み、ソフィアの剣、ストリームエッジを持ったままの「ゲームマスター」を探した。
だが、件の占い師以外はその姿を見た者がおらず、誰一人として手がかりを教えてくれることはなかった。
夕方、前日世話になった宿に三人が立て続けに戻ってくると、トライブは小さく首を振った。
そこまで言って、トライブは頭の中に「ゲームマスター」が消えていく姿を思い浮かべた。
登場人物であって、登場人物として常にこの世界に立っているわけではない。
だからこそ、誰も目撃していないなどという事が起きる。
それしか考えることができなかった。
その時、暗礁に乗り上げかけたトライブにソフィアが尋ねる。
さっき、また占い師に会ってきたの。
話はしてないんだけど、オルティスの刀を持った私を、昨日と同じようにじっと見ていた。
このゲームで、剣士でいるということがどれだけ大変なことか分かっている。
そんな目で、占い師は見ていたような気がする。
ソフィアは、小さく笑いながらそう言った。
だが、その言葉と同時にソフィアの目が向けられたトライブは、その目をやや細めて見た。
まさにその目が、「ゲームマスター」が消えた瞬間に、トライブ自身が占い師と向き合ったときに見つめられた目だったからだ。
心配そうな目……。
占い師の目は、本音を見せるってよく言われる。
だから、この世界でトライブは危ないんじゃないかって……言ってるんじゃない?
もちろん、「剣の女王」ならそんな困難だって打ち砕けるって、私は思うけど。
すると、トライブの目をそっと見つめながら、リオンがうなずいた。
何かひらめいたような目をしている。
その夜。
この日は、真ん中のパートでソフィアが見張ることになった。
前の晩、ほとんど寝ていなかったトライブは早めの時間に見張っていたが、その時間帯は何もなく、ソフィアに引き継ぐとすぐにベッドに入ってしまった。
ソフィアは、前日立った場所とほぼ同じ、占い師の家の前までやって来た。
家の灯りは、既に消えている。
そこから1時間、2時間。
物音は全く聞こえない。
前日物色した家に、二日連続は入らないとソフィアは思うしかなかった。
だが、時間がやってきて、ソフィアが次のリオンに引き継ごうとその場所を離れようとしたときだった。
ソフィアの耳にはっきりと聞こえるような音が、夜空に響いた。
首を夜空に向けると、すぐ後ろの屋根の上で黒いシルエットがじっとソフィアを見つめているのが分かった。
ほとんど灯りのないリバーサイドタウンで、「ゲームマスター」のシルエットは完全に夜空に吸い込まれていた。
だが、時折その黒が動くことだけで、ソフィアの目には分かったのだった。
ソフィアは、刀を持たない左手を伸ばし、「ゲームマスター」を手招いた。
低く、エコーのかかった声を夜空に響かせながら、「ゲームマスター」は軽くジャンプしてソフィアの前に降り立った。
その手には、ソフィアの剣、ストリームエッジを携えていた。
ソフィアは左手でストリームエッジを指差しながら。「ゲームマスター」にきっぱりと告げた。
ソフィアは、ストリームエッジに鋭く指を向けながら、「ゲームマスター」を細い目で見つめた。
最初は薄笑いを浮かべていた「ゲームマスター」の顔が、時間が経つにつれてやや下に傾いてくるのが分かった。
すると、「ゲームマスター」は耳打ちをするように、ソフィアにある人物の名を告げた。
ソフィアは思わず悲鳴を上げかけた。
ソフィアがそう言い、「ゲームマスター」からストリームエッジを渡されると、そのシルエットは再び夜空に消えてしまった。
その瞬間、占い師が家の窓からソフィアを細い目で見つめているのが、ソフィアの目にはっきりと見えた。