38 リオンはオルティスを目指す
文字数 2,585文字
一度トライブたちのほうに振り向いたリオンは、ほとんど何も言わないままリバーサイドタウンの出口へと向かった。
出口近いその場所こそ、つい先程トライブとオルティスが戦った場所だったが、トライブはリオンに声すら掛けることができず、その背中を追っていた。その背後からは、やはり何も言うことなく、アーディスとソフィアが付いてくる。
リオン、オルティスを倒すことに本気になってるわ。
最大の宿敵と言って、何としても二つのソウルウェポンを落とそうとしている。
ほとんど、それしか理由がなさそう。
少なくとも、今はリオンが主導権を持って、このゲームを進めようとしてるんじゃない……?
そうね……。
問題は、オルティスがリオンに負けたとき、物語がどう動くか……、そこなのよね。
そこまで言うと、トライブはソフィアやアーディスに顔だけを向けて、軽くうなずく。
やや低くなったトライブの声に、真っ先にソフィアが首をかしげた。
もしかして、物語が本当に動き出してしまう、ということなのね。
少なくとも、オルティスがソウルウェポンを二つも持っているのは異常でしょ。
彼と「ゲームマスター」とは、私とリオンからソウルウェポンを奪い取れれば願いを叶える、ということを話していたはずなのよ。
遠くから聞いただけだから、間違っているかも知れないけど。
ちょっと待て。
そのオルティスに、全ての五聖剣が集まってしまうということか。
そういうことなのよ。
オルティスがどれだけ凶悪な剣士かを知っているのなら、「ゲームマスター」が簡単にルールを曲げることはしないはずなのよ。
でも、そこまでして五聖剣集めをオルティスに託したということは……。
その時、ソフィアがトライブにはっきりと聞こえるように、喉元で息を飲み込んだ。
ソフィアが、何か思い付いてしまったかのようだ。
「ゲームマスター」自身の野望を叶えるためでもある……。
彼には、一つの野望があったわけよ。
ソフィアの目は、わずかにアーディスに向けられようとした。
だが、すぐにトライブはその動きを止めた。
ソフィア、その野望は言葉にしなくても大変なものだと分かってるわ。
そう言うと、トライブは首を元に戻し、やや離れてしまったリオンに向けて早足になった。
ソフィアは、じっとトライブを見つめ、一度アーディスに向けた目を戻そうとしなかった。
それから数分経ち、街の雰囲気も後ろに消えようとしていた頃、地下通路を出てから初めてと言ってもよいほどの大声が、リオンの口から響いた。
思った通りだ。
オルティスの気配がこっちの方向にする。
リオン。
たしかに、街をこの方向に出たことは分かっているけど……、どうして気配まで分かるのよ。
どういうことよ……?
土の上なら靴の跡がついているのは分かるけど、こんな雑草しか生えていない道でオルティスの向かった場所が分かるの?
トライブがそう尋ねると、リオンが首を軽く左右に振り、トライブに向けて笑った。
オルティスは、足を強く地面に踏みつけるんだよ。
パワー系の剣士は、総じて足をはっきりと支えているから、普段歩くときだって、つい強く踏んでしまうんだ。
だから、草が軽く折れかかっている方に進めばいいわけ。
もう長く剣士をやっているのに、私はあまり意識しなかった。
たしかに強く踏み込む剣士はいるわね。
だろ。
たぶん、俺たちの中だったら、アーディスが一番足跡つけてそうな気がするから、追跡には気を付けなよ。
まぁ、その理論じゃ否定できないよな……。リオン……。
うっすらと笑うアーディスのすぐ横で、ソフィアがトライブの目をじっと見る。
私も、足跡が見つかったことがあるわ。
あくまでも、自治区の中で戦闘していたことがバレただけだけど。
あの時ね……。
ソフィアが「オメガピース」から連れ出されて、セクション同士でバトルになったときよ。
ソフィアの靴跡が、私たちの追うきっかけになったわけだから。
その点、トライブは羨ましい。
どちらかというと戦い方が戦術系だし、普段から落ち着いているぶん、歩くときもそんな力を入れてないように見える。
軽々しく歩いているというか……。
その時、トライブたちが靴跡の話で盛り上がっているのを遮るかのように、リオンがその足を止めた。
軽く首をかしげるリオンに、その後を歩くトライブたちは彼の横に立った。
リオンがキョロキョロしながら、草に付いた足跡を探す。
後ろを振り返るものの、オルティスらしき人物のつけた足跡は全く見えなかった。
ごめん……。
ここまで来て、オルティスを見失った……。
リオン、ここまで来て、なんだよ……。
こんな広い草原の真ん中で行き場を失うなんて、どこから探せばいいんだよ……。
アーディス。
たしかに、不安になる気持ちは分かるけど、リオンにそんなこと言っちゃダメよ。
リオンだって、ここまで足跡を探し続けたんだから。
トライブは、そう言いながらリオンの後ろ姿を見つめる。
リオンは、小さな草をじっと見つめていたが、トライブの声に振り向いた。
トライブさ……、そう言ってもらえるとうれしいんだけどさ……。
ここまで突っ走った罪は重いよなって……思うよ。
そうね……。
でも、ここは罪とか言うんじゃなくて、この先どうするか一緒に考えないといけないわ。
まぁ……、そこの草を見れば……、ここまで踏みつけられたのははっきりと分かるんだよなぁ……。
……って、あれ……?
リオンは、すぐ手前の草をもう一度見て、そこの土に右手を真っ直ぐ向けた。
これ、へこんでるじゃん……。
なんか、土ごと強く踏まれたような感じがするんだけど……。
トライブは、リオンの指差した土の前に立ち、そこで中腰になる。
土の上に軽く手を置き、彼女はそこがゆっくりと沈んでいくことに気付いた。
一人で行動していないわけだし、埋め戻すことはできないはずなのに……、完全に落とし穴ぽくなってるわ……。
怪しいとは言え、ここはどうなってるんだよ、トライブ。
その時、トライブはふと地面から目を反らす。
目の前に高くそびえる木が、風もないのにかすかに揺れた。
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