51 ゲームは終わらない

文字数 2,548文字

そう言えば、ソフィアはどこに行ったのかしら……。

オルティスの姿が見えなくなると、トライブは何の前触れもなくソフィアのことが気になった。

アーディスを一人にさせるわけにはいかないため、しばらくトライブが彼の横についていたものの、最強の剣を決めるバトルに決着がついた段階で、離ればなれで終わりたくはなかった。



ソフィアは、オルティスに倒された。

そうであれば、オルティスの足跡、それもこちらに向かってくる足跡をたどれば何となく彼女の居場所を突き止められるはずだ。

私、ソフィアがどうなっているか気になるわ。

森の中に行くけど、アーディスも一緒に行かない?

俺は、もういいと思うけどな……。

このゲームも終わるわけだし、カルフールの野郎に逆恨みを受けられたとしても、その気になればヘヴンジャッジのコピーがあるわけだから、俺一人でいてもいいかもしれない。

本当に……?

アーディスは、ソウルウェポンではない状態でヘヴンジャッジを使いこなしているとは言え、アッシュと直接戦っているトライブには不安にさえ思えた。


だが、彼もまた「オメガピース」のソードマスターであることに変わりはない。

ほんのわずかな時間であれば、ソフィアを探しに行ける。

トライブは、そう決めた。

分かった。

少しだけ、森の中に行ってくるわ。

トライブは、オルティスが歩いて行かなかった方向を見渡し、踏まれた草を探した。

それは、トライブがソフィアを見送ったときとほぼ同じ方向からやって来ていた。

どうやら、こっちのようね。

トライブは、いつ出てくるか分からない「ゲームマスター」を気にしながら、木の間をかいくぐって日の差し込む森の中を、一歩一歩前に進んでいった。


10分ほど歩いたところで、彼女は草がたくさん踏み固められている場所を見つけた。

どうやら、そこでソフィアとオルティスが戦っているのは間違いなさそうだ。

ということは、ここからはソフィアの足跡をたどれば大丈夫ってことよね。

トライブは、森の中をさらに進んでいく。

すると、しばらくして大きな広場を見つけ、さらにその奥からリオンのマントのような色が、トライブの目にかすかに飛び込んできた。

リオンが……、木にもたれかかっている。


その横にいるのは……。

トライブは、その光景を見た瞬間に急ぎ足で広場に出て、そこで二人に声を掛けた。

ソフィア!

リオン!

トライブ……!

ソフィアがトライブの姿に気付き、すぐさまトライブに向かって駆けだした。

そして、トライブの持つアルフェイオスの剣先にその手をそっと近づけた。

アルフェイオスを持っているってことは……。


勝ったのね、オルティスに。

えぇ。


「ソードレジェンド」、私が頂点に立ったわけよ。

アルフェイオスも最強の剣の称号を得られたし、私にとっては最高の終わり方よ。

やっぱり、アルフェイオスは剣そのものもいいし、何と言ってもそれを持つのが「剣の女王」だもの。

たぶん、私の見てきた中で最強コンビって気がする。

ソフィアがそう言ってくれると、なんかものすごく嬉しくなる。



ところで、ソフィア。

剣は?

トライブは、ソフィアの手に何も握られていないことに気付き、やや目を細めながら尋ねた。

オルティスに負けたとき、私の持っていたストリームエッジが復活しなかったものとして扱われたのよ。

だから、リオンの持つはずだったコピーも含めて消えてしまったわけ。


オルティスの持っていた刀は、リオンにあげたわ。

だから私は、いま何も持っていないわけ。

なるほどね……。


で、そのリオンは……。

何も武器を持っていない状態でオルティスに襲われて、いま動けない。

もう少ししたら、アーディスを助けに行くとか言ってるけど……、私はリオンのほうが心配。

でも、もうすぐこのゲーム、終わるじゃない。

こんな離ればなれで終わったら、リオンも悲しくなるわ。

たぶん、別々の時代から来てそうだし。

その時、ソフィアが首を左右に激しく振り、両手をトライブの両肩に乗せた。

ソフィアの顔が、ややうつむき加減になっていることに、トライブは気が付いた。

トライブ。


何回か「ゲームが終わる」って言ったじゃない。

でも、まだ終わりじゃない。間違いなく。

どういうことよ。

オルティスが、私と戦う前に言ってたのよ。

もし、ヘヴンジャッジとアルフェイオスを私が落とせば、私が五聖剣のうち3本を落としたことになる。


そうなれば、あの時の契約のように無条件とは言わないが、最後のバトルで私へのパワーウェイトが高くなる。そんな計算だ。

つまり、トライブはこの後、たぶん「ゲームマスター」と戦わなければならない。

しかも、ハンデ戦になる。


オルティスの言ったことが本当だとしたら、そのバトルは落とした五聖剣の数で決まるわ。

たぶん、今のトライブは1本しか……、持ってない……。

言われてみれば……。

トライブは、少しだけソフィアから目を反らし、首を横に振った。


リオンが動き出すまで、ほとんどソウルウェポンに変動のなかったこのゲームで、その中でもトライブは決定的な勝負を避けていたことを、彼女自身がこの時初めて思い知った。

エクスリボルバーとガルフは、オルティス以前に誰かが破った……。

バルムンクは、リバーサイドタウンでオルティスが破った……。

ヘヴンジャッジは、ソフィアが破った……。



それらがみな敗者となったことで、計算上「ゲームマスター」が4本持っていることになる……。

それでいいわけね。

そう。


理想は、五聖剣で五聖剣を破れば、最後「ゲームマスター」と戦うときにどんどん有利になる。

でも、私がそのことを知ったのは、ついさっき。

オルティスは、「ゲームマスター」にずっと付いていたから、最初から勝負に出ていたってわけ。

1対4……。


でも、私はここで負けるわけにはいかないわ。

相手はそもそも剣士じゃないんだし、私だって数多くの強敵を破ってきたんだから。

トライブ、やっぱり……、どんな逆境もものともしない剣士ね。


最後の勝負、なんか私もゾクゾクしながら見たい。

アッシュと剣で戦うわけでしょ。

その時だった。

二人の立つ広場の奥から、黒いシルエットがゆっくりと近づいてきた。


その真の姿――アッシュ――を決して見せることなく、「ゲームマスター」は一歩、また一歩と二人に迫る。

トライブは、アルフェイオスを「ゲームマスター」にかざし、身構えた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色