40 アーディスの運命
文字数 2,570文字
まだこのゲームから消えてはいけないプレイヤー。
やや低い声でトライブに告げられたアーディスは、コピーのヘヴンジャッジを持ったまま立ち竦んだ。
全く動く気配のない呆然とした表情が、トライブとソフィアに鋭く伝わる。
それは……、どういうことだ……。
このゲームから退場しなきゃいけないはずなのに、俺にはそれ以外の運命が待っているというわけか。
トライブは、そこまで言うとソフィアに軽く顔を向けた。
その目に、ソフィアははっきりとうなずいた。
ちょっと待て。
俺は、「ソードレジェンド」に飛ばされたとき、思い切りひとりぼっちだったはずだぞ。
たしか、お前のアルフェイオスを穴に落としたとき、周りに誰もいなかったはずだが。
おそらく、その段階でアーディスを狙ったら、リオンがソウルウェポンを手に入れられなくなってしまう。
それだけの理由で、何もしなかっただけなのかも知れない……。
でも、もうリオンにもヘヴンジャッジが渡った以上、「ゲームマスター」は間違いなく狙ってくる。
なるほどな。
俺は狙われているということは、はっきりと分かった。
だが……、どうして俺が狙われないといけないんだ。
そこが分からないと、俺もどうしていいか分からないじゃないか。
トライブは、ソフィアにもう一度目を向ける。
だが、ソフィアはトライブと目が合った瞬間、少し下を向いて、アーディスに申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ゲームマスター」の都合ってことかよ。
そもそも、この世界にやってくる直前まで、「ゲームマスター」に会うことはないはずだし、そもそも俺がほとんど会ったことのない相手に、何の因縁をつけられるんだという感じがする。
運命だと分かっても、気分が悪い。
そう言うと、アーディスはトライブから目を反らし、剣を持ったまま彼女から背を向けた。
だが、そのまま数歩歩いたところで、その足は止まった。
そうは言っても、俺は逃げることのできない運命ということも、また確かなんだよな……。
少なくとも、何の因縁をつけられているか分かるまで、俺は死ねないし、逆にこのゲームだって終わりにして欲しくない。
受け入れるしかないだろ。
いや、受け入れたくなかったけど……、そこまで言われてしまっては、俺としても受け入れざるを得ないと思う。
かりにも俺は、剣で戦う者なんだから。
トライブは、そっとうなずいた。
同時に、彼女の足がゆっくりと動きだし、やや遠くなったアーディスの前に向かった。
あぁ、俺はいま38歳だからな。
「オメガピース」はとっくに引退し、ルーファスで土木建築を始めた頃だ。
リオンが俺を見てデスティニーブレイカーを気にしてたみたいだけど、そもそも俺は転送されたときにそれを持っていなかったし、たまたま昔使っていたヘヴンジャッジを持っていただけだ。
結果としては、そういうことになる。
もったいないけどな、一人娘のミシアを女だからって剣士にさせなかった時点で、俺がソードマスターだったときに使っていたヘヴンジャッジは用済みだった。
そんなことなら、ゲームの世界から元に戻れたときに、武器屋アルティメットに売り飛ばすよ。
そっか……。
ミシアはミシアで、俺とは比べものにならないくらいの魔術師になったわけか……。
その意味で、過去を見ているお前たちのほうが怖いよ。
アーディスは、そう言って軽く笑った。
運命を突きつけられたのが、遠い昔の出来事であるかのように。
だが、それとは裏腹に、トライブはひとり、会話のやりとりに首をかしげていた。
ソフィアが顔を振り向かせると、トライブは小さくうなずいて二人の目を見た。
「ゲームマスター」は、いつの時代の剣士を呼べばいいか、分かっている。
例えば、私とソフィアは全く同じ時代の設定で呼ばれたし、リオンもソードマスターだった頃に呼ばれている。
でも、アーディスだけは38歳。リオンと同じ時代の設定にならなかった……。
そのことが、何を意味してるかって……、私はさっきからずっと考えていたのよ。
ソフィアの言ってることも、間違っていないわ。
わざと「ゲームマスター」がその時代を選んだってことなのよ。
でも……、そこから分かるのは、それだけじゃない。
もっと根本的なことに、私たちは気付いていないのよ。