Sword Masters/Innidiation

20 夜の「ゲームマスター」

エピソードの総文字数=2,667文字

眠くなってきたわ……。

リバーサイドタウンの家々の灯りも完全に消え、時刻は深夜2時を回っていた。

ジャンケンの結果、最も夜が深いこの時間の見張りになったトライブは、時折あくびを浮かべながら、占い師の家の周辺を見張っていた。


夜に占い師が姿を見ているということを考えれば、この家の周辺でシルエットの剣士が暴れたといってもおかしくない。

トライブは、絶えず周囲を歩きながら、見慣れぬ人物がいないかどうか確かめていた。

アリスは夜更かし好きだけど、私はちゃんと寝てるし……。

ソフィアやリオンなんかよりもずっと規則正しい生活をしているから、かえって眠くなるのよね……。

リオンがトップバッターで街の様子を見ていた数時間、トライブは結局仮眠を取れなかった。


中心部の宿ということもあり、騒がしい声と強烈な酒の匂いが部屋の中にガンガン響いてくる。

ソフィアを含めて、仮眠どころではなかった。

ようやく喧噪が止んだ頃、トライブが出動、リオンとソフィアが眠れることになった、というわけだ。


家の屋根の先にある、小さく輝く星座の形を見ながら、トライブはもう一度あくびを浮かべた。


そこに、音が聞こえた。



ガタッ……!

あくびに声が混じったのかしら……。

トライブは、かすかな音の変化に気付いたものの、それが何であるか全く分からなかった。

声に出したかも知れないと思わせるほど小さな音だったため、トライブは自分の喉を軽く押さえた。


すると、もう一度音が聞こえた。



ガタッ……!

占い師の家で誰かが動いている……!

一歩、また一歩と、物音が占い師の家を歩いている。

それは間違いのないことだった。


だが、占い師の家は、トイレと思われる部屋を除き、闇に閉ざされたままだ。

灯りも付けない中で、誰かが歩いていることになる。


トライブは、占い師の家を囲う生け垣から身を乗り出し、中の様子を伺った。

えっ……?

ガチャンという音が聞こえ、食器棚か何かを開けるようなきしみが、トライブの耳にはっきりと響いた。

そして、すぐに閉める。


何かを探しているようだが、扉を開け閉めする回数を考えれば、占い師本人が覗いているわけではない。明らかに、他の誰かが開けている。

盗み……?


そうだとしたら、止めないといけない……。

その中で徘徊している人物が誰であるか、まだ分からない。

しかも、ソフィアから伝えられた「暴れる」という動作も、これまでのところない。

それどころか、それまでの情報では、暴れているところが占い師の家の中とは言われていなかった。


あの時言われていたシルエットではない可能性も、トライブは考えなければならなかった。

そこにいるのは誰よ!

近所迷惑とも言えるレベルの声で、トライブは占い師の家に向かって叫んだ。

すると、小さな音が一気に大きくなり、その後すぐに何かを引き抜くような音が激しく響いた。

私の声に気付いて、中の人は慌ててるようね。


出口をふさぐしかないわ。

トライブは、占い師の家の玄関を目指して走り出した。

ほぼ同時に、中の足音もこれまで以上のペースで部屋を走る。


ちょうどその時、占い師も起きたようで、物音が二重になり始めた。

家の中で暴れるのは、誰じゃああああ!
くっ……、この家の主に気付かれたか……!
この声……、聞き覚えがある!

低い、エコーのかかったような声を聞いたトライブは、すぐに中にいるのが誰かを確信した。

「ソードレジェンド」の世界に転送される前、そして転送された直後に聞いた低い声。

トライブは、想定していたとは言え、軽く身震いした。

やっぱり、「ゲームマスター」よ……。

シルエットの剣士ってだけで、80%確信していたのに、これで間違いなく「ゲームマスター」が暴れたことになる……!

トライブは、玄関の前で仁王立ちし、起きてきた占い師との間で犯人を挟み撃ちにしようとした。

あとは、いつ玄関のドアが開くかどうかだった。


「ゲームマスター」が本当に剣士であれば、すぐにでも戦闘が始まる可能性がある。

トライブは、自然とアルフェイオスを正面に構えていた。



そして、その時は来た。

やっぱりお前か……!

何をしていたのよ、「ゲームマスター」。


このゲームは、無法地帯じゃないのよ!

トライブは、そう言いながら「ゲームマスター」の手を見た。

右手ではなく、左手に剣を持っていた。


だが、その剣の形を見たとき、トライブは剣を持たない左手を強く握りしめた。

全身を震わせ、一歩、また一歩と「ゲームマスター」に近づく。

ちょっと待ちなさい。


「ゲームマスター」、その手に何を握ってるのよ!


それ、ソフィアの剣じゃない……!

シルエットだけで、分かるというのか。

ソフィアは、私と何百回、何千回も剣を交えてきた。

その形を見たら分かるわよ。


どうして、「ゲームマスター」がソフィアの剣を持ってるわけよ!

トライブは、あくびをすることさえ忘れ、「ゲームマスター」をじっと見つめた。

その目は、ほとんど見せたことがないほどつり上がっていた。


トライブにとって最大の親友で、最大のライバルの持っている剣が、「ゲームマスター」の遊び道具にされている。それは間違いのないことだった。


やや時間を置いて、「ゲームマスター」の口がゆっくりと開いた。

俺が、どうして他人の剣を持つか?



最強の剣を持ちたいからだ。


ついでに、普通の家に眠っているかも知れない剣を奪うのも、そのためだ。

あなたが最強の剣を手に入れる?


おかしなこと言わないでよ。

このゲームは、最強の剣を決めるためのゲームでしょ。

建前上は、な。


だが、俺は剣士に対する憎しみとともに動いている。

そのことも、忘れるな。

その憎しみが何か、私には分からない。


けれど、このゲームを支配するあなたにも、それなりの感情があるってことだけは分かったわ。



でも、この世界でまだ生きているソフィアの剣を、あなたが武器として持っていることだけは許せないわ。

返しなさいよ。

トライブは、戦闘を始めたくて仕方がなかった。

だが、相手に戦闘を始める気配がないことに、トライブは薄々気付き始め、前に出していた右足を、手前に少しずつ引いていく。


代わりに、手を差し出し、「ゲームマスター」に剣を返すよう促した。

いや、ここで返すわけにはいかない。

俺の武器は、今のところこの一本だけだからな。



またいつか、お前と戦わなければならないようだ。

その時まで待ってろ。

「ゲームマスター」……、どこ行くのよ!

トライブが叫ぶと同時に、「ゲームマスター」のシルエットがうっすらと消えていき、ついにトライブの視界から見えなくなってしまった。


ガックリと肩を落とすトライブを、占い師が向き合う形で見つめていた。

TOP