59 俺がただ一人 力を貸せる剣士
文字数 2,537文字
聞こえたのは、剣の声――。
それは、紛れもなくアルフェイオスの声だ。
光を解き放ち、今にもその剣を粉々にしようとしているレインボーブレード。
その攻撃に必死に耐えようとするトライブの手が、また少しずつパワーを取り戻し始めた。
トライブ……。
俺は、お前とでしか戦えない……!
アッシュが、素早いスピードでレインボーブレードをアルフェイオスに叩きつける。
トライブはアッシュの動きを止めようとするが、そのスピードとパワーに翻弄されつつある。
前に踏み込んでいたはずの足も、じりじりと下がっていった。
その中でも、トライブはアルフェイオスの声に応えようとした。
さすが、俺がただ一人、信頼できる剣士……。
ただ一人、力を貸せる剣士……。
お前は、俺のたった一人の理解者だ……。
五聖剣の一つとして作られながら、使う者が次々と命を落とし、捨てられてしまった過去。
わずか数年で栄光から転げ落ち、洞窟の中で心を閉ざしてしまった。
強い剣だと言われながら、戦闘に使ってもらえない。
数十年にわたり誰からも見捨てられ、やがて五聖剣の記述からも消されてしまった。
そのアルフェイオスに手を差し伸べ、閉ざしていた心に向き合ってくれた、一人の女剣士。
それが、トライブだった。
強敵と戦うために生まれた、強い剣であること。
そのことを気付かせてくれたトライブに、アルフェイオスは初めて心を開いた。
そのような背景で生まれた、剣士と剣の固い絆。
たった一人信頼できる剣士は、今もアルフェイオスを手に戦っていた。
勝利、敗北、時には傷すらも共にしたお前を……、ここで見捨てることはできない……。
たとえ、レインボーブレードの姿になったとしても……、俺はお前を……、見捨てたくない!
お前がいなくなったら、俺はまた……、誰も信頼できなくなってしまう……。
レインボーブレードが放つ七色の光が、少しずつ小さくなるのをトライブは感じた。
圧倒されるようなパワーを、彼女はもはや感じなくなった。
アルフェイオスが、レインボーブレードの力を押さえつけている。
その剣がともに戦う相手は、アッシュではない。そう自己主張するかのように。
そして、再びアルフェイオスは言った。
トライブ。
俺とともに戦え。
俺は……、お前だけに力を貸す……!
その瞬間、トライブは手にしたアルフェイオスからパワーを受け取ったように感じた。
戦い続けるための力。
アッシュが手にしているアルフェイオスの魂が、レインボーブレードの力を抑えられている間に、勝負を決めるしかない。
だが、アッシュもそのことに気付いているようだ。
次の瞬間、アッシュはすかさず、トライブの持つアルフェイオスを下から叩きつけようとした。
その時、トライブはその手に一気に力を入れ、上からレインボーブレードを激しく叩く。
強い衝撃がトライブの手に伝わるが、その中で「本気を取り戻した」アルフェイオスがじりじりとレインボーブレードの剣先を下げていく。
そして、アッシュが剣を正面に戻すと同時に、また強くアルフェイオスを叩きつけた。
たとえレインボーブレードの力を押さえつけたとしても、アッシュの研ぎ澄まされた判断能力でトライブの次の一手が読まれてしまう。
それでも、彼女は臆することなく、レインボーブレードに力強く立ち向かい続けた。
アルフェイオスと、心を一つにして。
「クィーン・オブ・ソード」の熱い魂が、いま最強の剣を打ち砕こうとしていた。
正面に戻すのが一瞬遅れたアッシュを、トライブは見逃さなかった。
彼女の左から、アルフェイオスがレインボーブレードに強く襲いかかり、その光と共にアッシュの手からはじき飛ばした。
地面に叩き落とされたレインボーブレードが粉々になり、いくつもの光になって、柄だけ残してその形が失われる。
トライブ……。
やはりお前は、俺を……、限界まで操ってくれた……。
溢れるようなパワーが未だに残る、アルフェイオス。
剣は、また一つ強敵を打ち破った「唯一の使い手」に、静かに言った。
激しく肩で呼吸しながらも、女王もまたそっとうなずいた。
その時だった。
剣を失ったアッシュが、トライブに向けて真っ直ぐ銃を構えた。
目を細め、既にトライブに照準を合わせているかのようだった。
ソフィアがトライブに駆け寄り、彼女の手を掴もうとしたその時だった。
トライブはアルフェイオスを真っ直ぐ伸ばし、きっぱりと言った。
アッシュの右人差し指が、引き金に伸びる。
発砲秒読みだ。
それでも、トライブは動かなかった。
たしかに、剣士の道を目指し、それが道半ばで諦めざるを得なかったことは……、間違いない。
アーディスを憎みたい気持ちだって、私にも分かるわ。
でも、それによって……、あなたは剣以上に自分の力を引き出せる武器に出会えた。
その才能で、あなたはここまで生き延び、誰もがその腕を認める銃使いになったのよ。
剣士を目指していたなら、あなたは一番の適職に出会えなかった。
そうじゃないの!
その瞬間、アッシュの手から銃が落ち、その膝が崩れ落ちた。
下を向き、何度か歯を食いしばりながら、彼は静かに言った。
その時だった。
木の陰に隠れていたアーディスが、アッシュに向かって一歩ずつ歩き出した。