24 血塗られた五聖剣

文字数 2,540文字

五聖剣。


それは、かつてオメガ国が領土拡大をする際に、腕の立つ5人の剣士に持たせるために作られた剣。

国じゅうの鍛冶師たちが、その技と魂の全てを賭けて作った剣のうち、王に選ばれたたった5本の剣。

その剣のほとんどは、持つ者に大いなる力を与え、迫りくる強敵に打ち勝つための希望となっていったのである。



その五聖剣に入っていたのは、バルムンク、ヘヴンジャッジ、エクスリボルバー、ガルフ、そして――

ライトニングセイバーが、そう呼ばれていた時代があったんだよ。

でも、それは決して正規の五聖剣なんかじゃなかった。

えぇ。


だって、五聖剣の最後は、私の剣だもの。

ずっと日の目を見なかった剣だけど。

えっ……!


トライブのアルフェイオスが、五聖剣なんだ!

話を進めようとしたリオンは、その瞬間に一歩後ろに下がった。

リオンがソードマスターだった時代、決して表に出ることのなかった五聖剣の最後の一本が、いま目の前にあるという現実を、思い知ることしかできなかった。

えぇ。

これは、あの時代に正真正銘の五聖剣として認められた剣よ。


ただ、リオンのいた時代は、ずっと洞窟の中だったし、書物からも消されてしまっていたから、気付かないと言われれば気付かないわね……。

なるほど。じゃあ、話は簡単に繋がったな。


トライブのアルフェイオスは、何かしらの理由でオリジナルの五聖剣から外された。

たしか、持った剣士がすぐに命を落とすとか、そういう理由だったよな。

えぇ。


あの時代は、評判がすごく悪かったらしいわ。

トライブは、かすかにアルフェイオスを見つめていた。


数年前、彼女はその作り手となった鍛冶屋の孫と出会い、その悲劇の全てを知ることとなった。

そして、そこから「アルフェイオスを救いたい」と動き出し、最後まで扱える剣士の現れなかったアルフェイオスの力を、トライブが使いこなすようになったのだ。

そして、アルフェイオスは洞窟に捨てられた。

五聖剣の総称も四聖剣とされて、アルフェイオスはその存在を消されたんだ。


けれど、王のその決定に、オメガ国の一部の剣士は従わなかったんだ。

その話、知らないわ。すごく興味がある。

俺も聞いた話でしかないけど、五聖剣の力を一つに集めると、一本の大きな剣になるんだ。

オメガの国を守り、民を救うための、七色に輝く剣なんだけど。


だから、五聖剣が四本しかないなんて、それを信じる剣士たちには信じられなかったんだ。

すごいじゃない、その七色の剣。


ということは、リオン。

彼らは、無理やり剣を五本にしようとしたってことでしょ。

そういうことになる。


そこで、五聖剣の「最後の一本」として作られたのが、さっきまで俺の持っていたライトニングセイバーってわけさ。

リオンは、何度か首を横に振りながら、トライブに言葉を続けた。

彼の目は、決してライトニングセイバーを喜んでいるようには見えなかった。

でも、所詮は誰かの作った伝説だし、ライトニングセイバーは無理やり作られた五本目の剣だから、七色の剣なんか現れなかった。


そりゃ、そうだよね。

少なくとも、アルフェイオスが手元にない時点でその剣は出るわけないわ。

普通は、トライブのように良識のある答えが戻ってくるんだろうけどさ……、あの当時の剣士はそんなこと思いもしなかった。



ライトニングセイバーが全て悪いと言って、ハンマーで叩き割ろうとする事件まで起きちゃったんだ。

俺の剣、そこまでダメな剣じゃないはずなのにさ。

そこまでどころか、相当の剣よ。

リオンと戦って、その力を見せつけられたもの。


剣をハンマーで叩き割ろうなんて、剣がかわいそうじゃない。

トライブは、リオンと戦ったときに白く輝いたライトニングセイバーを、その頭の中に焼き付けていた。

その時の、腕にじりじりと押し込んでくる力を、トライブはこの時も忘れることができなかった。



そして、数秒ほど考えるしぐさを見せて、トライブはリオンに尋ねた。

その話を聞いて、ショックだったと思うわ。

私でも、ものすごくショックだし、痛々しく思える。


その後、ライトニングセイバーはどうなったのよ。

その後?


行きつけの武器屋にライトニングセイバーが投げ捨てられて、それが俺のところに回ってきたんだよ。

騎士団のメンバーからは「中古」と言われるし、あいつらもどこからエセ五聖剣なんて情報手に入れたんだっつーの。


そんな最低の出会いだった。

そうね……。


そうなると、話のつじつまが合ってくるわ。

どういうつじつまだよ?

ライトニングセイバーが、リオンのソウルウェポンじゃないっていう話よ。


無理やり持たされた剣になるんだったら、「ゲームマスター」も無理にその剣をソウルウェポンにしないわ。

トライブは、そこまで言いきると、再び考えるしぐさを見せた。

それでも解決できない悩みをどうすればいいのか、彼女はその脳裏で必死に考えるしかなかった。

ところで、リオン。


リオンの剣が無理やりライトニングセイバーにされたわけでしょ。

本当は、「青い旗の騎士団」でどの剣を持つはずだったのよ。

俺も、あまりよく分かってないんだ。


騎士団のメンバーは、武器屋のサルコスって親父に武器を決められたんだから。

「似合う」とかそういう感じで。

似合うか似合わないかで、武器が決まったわけね。

そういうこと。



今から思えば、変な決め方だったと思うよ。

リオンは、そこまで言うと薄笑いさえ浮かべた。

起きてしまった悪夢を、言い出しっぺであるにもかかわらず今更蒸し返したくないという目をしていた。


逆に、トライブは一度首を横に振り、右手を額の上にかすかに当てた。

じゃあ、手掛かりはほぼないわね。

リオンのソウルウェポンが本当は何だったのか、ということ。



ほんのわずかな可能性に賭けてみることはできるけど。

ほぼ……?


ってことは、可能性はゼロってわけじゃないんだよな。

アーディスが知ってるかもしれない。

騎士団に一緒にいたんだし、もしかしたら彼の持っている剣が……、この世界でリオンの持つべきはずだった剣かも知れない。

そっか……。


その可能性は残されてるんだ。

もしそれが正しいとなれば、アーディスだってソウルウェポンを持ってないことになる!

だが、トライブがその一言を言おうとしたとき、遠くから見つめるソフィアの目がやや細くなるのを、トライブは偶然にも気付いてしまった。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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