42 決戦が始まろうとしている
文字数 2,661文字
突然、3人の前に現れた「ゲームマスター」に、トライブはやや目を細める。
咄嗟に、アーディスの前まで駆け、そこで両手を広げた。
右手に構えるアルフェイオスが、光に照らされる。
エコーのかかった声が、トライブの耳を貫いていく。
暗闇に覆われたシルエットは、決してその姿を見せようとしないが、ソフィアはその正体を見抜いた分。だが、それをソフィアに聞くような時間すら、トライブにはなかった。
「ゲームマスター」はその手に持つガルフで、真っ直ぐアーディスに向かって襲ってきそうな姿勢になっていた。
たしかに、アーディスは剣術大会で一人の少年を完全に破ったことを、因縁付けられそうとは言った。
けれど、話を聞いたら、彼は剣士として当たり前のことしかやってないじゃない。
負けて因縁付けること、そのものがおかしいと私は思うわ。
そう言うと、「ゲームマスター」はトライブに右手で「どけ」と合図した。
それでも、トライブは目を細めたまま引かなかった。
だが、その数秒後、トライブは後ろから肩を叩かれたことに気付き、目を細めたままアーディスに振り返った。
トライブは、アーディスにうなずき、彼から一歩体を外す。
すると、アーディスはコピーのヘヴンジャッジをそっと地面に置き、その剣を乗り越えるように一歩踏み出した。
「ゲームマスター」に、因縁つけられる覚えはない。
俺が想定していたのは、全く違う剣士だ。
お前のように、邪悪な雰囲気の漂う剣士じゃない。
俺が因縁をつけたのは……、もっと強そうな剣士で……、言ってしまえば夢のある剣士だった……。
お前のように、何の目的があるか知らんが、俺たちをゲームの世界に引きずり込ませるような剣士じゃない。
お前とは……、戦う理由がない。
俺だって、分からないものは分からない。
それでも、理由のない闘いから、何も生まれない。
違うか。
戦いたくない相手に剣を向けない。
つい先程もそのようにしたトライブが、はっきりと首を縦に振る。
やや遅れて、「ゲームマスター」も一歩後ろに下がった。
「ゲームマスター」は、そう言って薄笑いを浮かべた。
数秒も経たないうちにその影が薄くなり、やがて3人の前から姿を消した。
アーディスからやや遠ざかっていたトライブとソフィアが、緊張感から解き放たれたかのようにアーディスの前に駆け寄った。
当たり前だ。
真実が分からないこのタイミングで、「ゲームマスター」と戦うわけにはいかない。
それに、万一「ゲームマスター」を倒せば……、このゲームが無秩序になる。
俺はそう思っただけだ。
まぁ、いい。
「ゲームマスター」も、ちゃんと証拠を見せるはずだろう。
だが、どう考えてもあんな剣士ではなかったはずだ。
12年で、あれだけ変わるというのか。
そう言いながら、アーディスは「ゲームマスター」の前で決して見せることのなかった握り拳を、右手ではっきりと作った。それから拳をほどくと、地面に置いたヘヴンジャッジをゆっくりと手に取った。
その時だった。
トライブの目に、ソフィアがうつむく姿が飛び込んできた。
トライブの小さな声に、ソフィアがかすかにうなずいた。
剣士じゃない。
なら、俺に因縁付けた剣士でもなくなるってわけだな。
だいいち、俺と剣で戦ったわけだからな。12年前に。
二人の言葉に、アーディスはそっとうなずいた。
それと同時に、ソフィアがトライブの目を見て、何かを言って欲しいような瞳を浮かべた。